公益財団法人 日本漢字能力検定協会

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漢検漢字文化研究奨励賞

平成30年度(第13回)受賞者発表・講評・論文

平成30年度 漢検漢字文化研究奨励賞 受賞者

各賞受賞者(敬称略)論文タイトル講評
最優秀賞 該当無し
優秀賞 ミヤカワ ユウ
宮川 優
上智大学大学院文学研究科
国文学専攻博士後期課程2年
西海道風土記乙類歌謡の文字選択(再考)
pdf論文PDF(524KB)
講評
佳作 キクチ ケイタ
菊地 恵太
東北大学大学院文学研究科
博士後期課程3年
日本学術振興会特別研究員
(DC2)
位相論的略字体史の試み―仏家と非仏家の対立―
pdf論文PDF(1.3MB)
講評
佳作 チョウ ケイホウ
張 馨方
北海道大学大学院文学研究科
博士課程2年
観智院本『類聚名義抄』における小字字体注記について
pdf論文PDF(1.5MB)
講評

講 評

京都大学名誉教授
公益財団法人 日本漢字能力検定協会漢字文化研究所所長
阿辻 哲次

 平成30年度漢検漢字文化研究奨励賞は厳正な審査の結果、以下の通り受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげる。
 この事業は、(公財)日本漢字能力検定協会が主催する事業のひとつとして、わが国の歴史を通じて文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論などを顕彰し、研鑽をたたえ、その成果を世に広めるための制度としてはじまったもので、今回は第13回目にあたる。
 かつては投稿論文が少なく、締め切りを延長して再募集したという苦い経験もあった。だがそれも今は昔で、近年はうれしいことに回を追うごとに投稿論文数が増え、論考の質も以前よりは格段に高くなった。それは本論文顕彰事業の意義が全国の研究者のあいだに認知され、数多くの若手研究者が意欲的に挑戦されはじめたことによる成果にほかならない、と関係者は自負している。
 今回は合計14本の論考が寄せられた。いずれも力作揃いで、他の雑誌などで公刊されたものも一定の条件をクリアすれば投稿が可能であるが、今回の投稿論文にはまったくのオリジナル論文が数点含まれていた。また昨年度にあった、論考が掲載された他の雑誌や紀要のコピーだけ送ってよこすという不愉快な事例も今年度はまったくなく、投稿規定違反によって最初から審査の対象外とされた「門前払い」はまったくなかった。
 14本のうち受賞されたのは3本だけだが、賞に漏れた論考の中にも力作が多く、とりわけ非常に興味深い研究が2篇あった。どちらもおなじみの漢字語をめぐる研究で、ひとつは「人間」を、もうひとつは「青年」を取りあげたもの、ともにすでに第一線に位置する研究者による優れた論考で、受賞の対象とするか否かについて、各委員からかなりふみこんだ議論が展開されたが、最終的には受賞対象とはならなかった。理由は、両論文とも取りあげられる漢字語そのものを扱った研究というよりは、特定の思想家個人、または特定の時代的状況において、そのことばに賦与された意義やその外的認識の変遷などを考察したものであり、漢字語そのものに取り組んだ語誌的研究ではないという点で、漢字文化研究という枠から外れていると認定されたからである。
 その他にも、日本語でも中国語でも一般的には使われない冷僻な漢字(「疑難字」)について、その造字法などの解明に取り組んだ論考があった。従来にはほとんどスポットがあてられていない領域に取り組んだ意欲作だが、ただ考察がやや散漫で網羅的な内容に終始している部分が多く、また論の展開にいくぶんかの未熟な点があるなどによって受賞にはいたらなかったが、まだ若い研究者であり、今後の研鑽に大いに期待がもてた。
 今回も、非漢字圏出身の外国人に対する日本語教育で提示される漢字の選定や、学校における漢詩教育に関してなど、問題の設定が日本における漢字と日本語の文化に関する研究という、本事業が目的とする領域にはそぐわないか、あるいは漢字研究ではなく言語学の範囲に特化した専門的な問題を扱った論考が多かった。概括的にいえば、議論の展開よりも問題の設定についてもう一度考えていただきいというのが、正直なところである。
 今回の審査を通じて、本奨励賞に投稿される方の年齢と職業の分布が、年を追うごとに広がりつつある感をいっそう強くした。漢字を単に日本語を読み書きするために必要な文字ととらえるだけでなく、さまざまな問題意識を持って漢字を学習し、愛好し、研究している方々が世間には実にたくさんおられると見うけられる。そのような方々から、より多くの、フレッシュで独創的な研究成果が投稿されることを関係者一同は切に希望している。


優秀賞  宮川 優
「西海道風土記乙類歌謡の文字選択(再考)」

 「西海道風土記」には甲類と乙類(逸文)があり、後者には歌謡が一首記されている。肥前国「杵嶋」の歌である。「婀邏禮符縷 耆資麽能多塏塢 嵯峨紫彌台 區縒刀理我泥底 伊母我提塢刀縷(霰降る杵嶋の岳を険しみと草取りがねて妹が手を取る)」。宮川氏はこの歌謡の語彙の平安アクセントと万葉仮名として用いられた漢字の原音声調を対照し、文字選択がアクセントを反映している可能性が高いことを説いた。高山倫明「原音声調から観た日本書紀音仮名表記試論」に続く、上代アクセント研究史上きわめて重要な発見である。
 宮川氏はこの歌謡を見て、どうしてこんな表記なのかと疑問を抱いた。これが成功への鍵であった。今回、初出論文に検討を加え、さらに素晴らしい出来栄えとなった。「学びて思わざれば則ち罔し、思いて学ばざれば則ち殆し」。今後は後者にも留意し、研究の幅を広げられることであろう。

(森 博達)

佳作  菊地 恵太
位相論的略字体史の試み―仏家と非仏家の対立―

 漢字に使用者や使用場面による位相差があることについては、すでに学界において認識が広まり、字誌と呼びうる記述もいくつも公開されてきたが、その字体、ことに実用的で規範を求められない場面での使用字体については史的な記述は十分にはなされてこなかった。そうした中で、稿者は仏者と非仏者との間で使用される字体に差があったことを史的な文献調査によって複数見出し、記述を行った。従来、言及がなされてきた字種と「略字」を取り上げ、幅広い文献を用いて手堅い検証を加え、やや冗長な論述と展開を急いだ行論も見受けられるが、穏当な結論を導き出している。稿者はすでに他の字体に関しても調査研究を実施しており、今後は各字の発生の根源まで確かめ、抄物書への言及については江戸期の随筆雑著などにも調査対象を拡げるなどより多くの先行研究をふまえ、さらに字種・字体の種類も増やし、種々の現象の原因を一層追究していくことで、字体の史的変遷を一層広く立体的に解明するものと期待される。以上の諸点をもって、本稿が奨励賞佳作に値するものと審査会一致の判断となった。

(笹原 宏之)

佳作  張 馨方
観智院本『類聚名義抄』における小字字体注記について

 『類聚名義抄』は、古代日本語、特に古代日本の漢字・漢文訓読語に関わる研究者にとってバイブル的な存在である。とりわけ観智院本は、広益(改編)本系諸本中、唯一の完本であって、古代の漢文文献を扱ううえで、必ず参照しなければならない、最重要の古辞書である。しかしながら、そこに示された情報のすみずみまで明らかになっているかというとそうではなく、個々の注記がどのような書物から引用され、位置づけられているかなど、未解決の問題もなお残されている。本論文は、このうち、小字字体注記の問題に切り込み、解明を試みたものである。その解決に至る調査の手法・整理の仕方は概ね妥当であり、問題意識も明確である。今回扱った対象の規模は必ずしも大きくはないが、珠玉の小品として、今後裾野を拡げてくれるであろうとの期待を込めて、佳作に相応しいと認めた。

(山本 真吾)

平成30年度(第13回)実施概要

趣旨

漢字研究、漢字に関わる日本語研究、漢字教育など、広く漢字文化に関わる分野における優れた学術的研究・調査等に対して、その功績をたたえ社会全体に広く公表していく制度です。
将来一層発展することが有望視される、若い世代の清新な学究の優れた研究論文を選考し、更なる深化を奨励するため、懸賞論文形式の「漢検漢字文化研究奨励賞」を設定します。

対象

◆漢字研究または広く漢字に関わる日本語研究であること。

◆将来、一層の研究・調査の深化、発展が期待できる若い世代の研究(者)であること。

◆応募者本人が日本語で作成し、48,000字以下の分量であること。但し、図表、註、参考文献、引用文献は字数に含めない。

◆過去3年以内に公表した論文(※)も対象とする。但し、既に他で受賞した論文は対象外とする。

  • ※平成27年4月1日以降に提出または刊行したもので、著書の場合は論文が元となっているものを対象とする。

選考委員

阿辻哲次  京都大学名誉教授、(公財)日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所 所長

笹原宏之  早稲田大学社会科学総合学術院教授

森 博達  京都産業大学外国語学部アジア言語学科教授

山本真吾  東京女子大学現代教養学部教授   (五十音順)

表彰

正  賞 ・・・・・・・・・・・ 表彰状

副  賞 ・・・・・・・・・・・ 奨励金

  1. 漢検漢字文化研究奨励賞 最優秀賞 100万円
  2. 漢検漢字文化研究奨励賞 優 秀 賞  50万円
  3. 漢検漢字文化研究奨励賞 佳   作  30万円

※但し、該当なしの場合もある。

※副賞は所得税および復興特別所得税の源泉徴収額を差し引いた上で支払う。

授賞式  平成31年3月下旬予定(詳細は後日案内)

応募について

  1. 応募条件
    応募締切日時点での満年齢が45歳未満であること。
    共同執筆の場合は、応募締切日時点ですべての執筆者の満年齢が45歳未満であること。
    共同執筆の場合は、それぞれの執筆分担を論文中に明記すること。
  2. 応募方法
    以下の3点を揃え、応募締切日までに郵便または宅配、もしくはEメールに添付して提出してください。
    1. excel『応募用紙』(当協会所定のもの/319KB)

      ※共同執筆の場合は、執筆代表者のみ当協会所定のものを提出してください。
      他の執筆者は、共同執筆者用応募用紙に記入し提出してください。

    2. excel『応募論文の概要』(当協会所定のもの/46.5KB)
    3. 『応募論文』
      応募論文は次のいずれかの形式でご提出ください。
      1. ワープロ等で作成し、印刷出力したもの(他誌掲載論文の抜刷やコピーは不可)
      2. ワード・一太郎仕様のデータFDまたはCD-ROM
      3. ワード・一太郎仕様のデータまたはPDF(Eメール添付の場合)

      ※応募書類一式は返却いたしませんので、あらかじめコピーをお取りの上、ご提出ください。

      ※Eメール添付の場合、レイアウトの保持・表示・印刷が可能なファイルフォーマットに変換した上で提出してください。

  3. 応募締切日
    平成30年10月31日(水)(協会必着)

選考と結果通知

◆「漢検漢字文化研究奨励賞」選考委員会による選考を行います。
 結果通知…平成30年12月下旬

◆受賞論文は当協会刊『漢字文化研究』に掲載するほか、当協会のホームページや機関誌、書籍等、当協会が適当と認めた媒体で発表します。

◆選考結果は封書にて連絡いたします(共同執筆の場合は執筆代表者へ送付)。

応募先および問い合わせ先

〒605-0074 京都市東山区祇園町南側551番地
公益財団法人 日本漢字能力検定協会「漢検漢字文化研究奨励賞」係
TEL:0120-509-315 月~金 9:00~17:00(祝日・お盆・年末年始を除く)
Eメール:km(at)kanken.or.jp
※(at)は@に置き換えてください。

●個人情報に関する注意事項●

  • 記入して頂いた個人情報は、「漢検漢字文化研究奨励賞」に関わる業務にのみ使用します。
    (ただし、本件に関わる業務に際し、業務提携会社に作業を委託する場合があります。)
  • 個人情報の記入は任意ですが、必須項目に記入がない場合は申請の受理ができないこともございますので、
    ご注意ください。
  • 個人情報に関する開示、訂正等のお問い合わせは、下記の窓口へお願いします。
    公益財団法人 日本漢字能力検定協会 個人情報保護責任者 事務局長
    個人情報相談窓口 https://www.kanken.or.jp/privacy/

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