公益財団法人 日本漢字能力検定協会

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漢検漢字文化研究奨励賞

平成26年度(第9回)受賞者発表・講評・論文

平成26年度 漢検漢字文化研究奨励賞 受賞者

各賞受賞者(敬称略)論文タイトル講評
最優秀賞 にしじま ゆうたろう
西嶋 佑太郎
京都大学医学部医学科 日本語医学用語の読みの多様性と標準化-「楔」字を例に-
pdf論文PDF(2.1MB)
講評
優秀賞 該当無し
佳作 おかがき ひろたか
岡墻 裕剛
常葉大学教育学部
講師
近代日本における基本漢字集合の系譜-『文字のしるべ』・Chinese Characters・「三千字字引」を中心に-
pdf論文PDF(3.9MB)
講評
佳作 てい えんひ
鄭 艶飛
白百合女子大学
教務部教務課国語国文学科研究室
非常勤事務職員(事務助手)
「一円進止」と「進退領掌」の四字熟語化について-中古・中世の土地所有語彙の研究-
pdf論文PDF(1MB)
講評
佳作 ねもと しゅん
根本 駿
早稲田大学大学院
教育学研究科国語教育専攻
修士課程2年
「懶」の字における意識の変化-字形による区別とその展開-
pdf論文PDF(18.1MB)
講評

講 評

京都大学大学院人間・環境学研究科教授
公益財団法人 日本漢字能力検定協会 評議員
阿辻 哲次

平成26年度漢検漢字文化研究奨励賞は厳正な審査の結果、以下の通り受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげる。
この事業は、(公財)日本漢字能力検定協会が主催する事業のひとつとして、わが国の歴史を通じて文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論・教育方法の開発などを顕彰し、研鑽をたたえ、その成果を世に広めるための制度としてはじまったもので、今回は第9回目にあたる。
投稿論文が少なく、締め切りを延長して再募集せざるを得なかったという苦い経験はすでに遠い過去のこととなり、ここ数年は投稿論文数がいちじるしく増え、またその質も以前にくらべて格段に高くなってきた。今回も投稿数は12本に達し、その大多数が研究水準の高さを実感させる力作であった。そして審査委員としてなにより嬉しいことに、今回は最優秀賞を授賞する論考があった。
例年のことであるが、選に漏れた論考の中にも興味深い論考は数多くあった。しかしそれらは、たとえば問題の設定が日本における漢字と日本語の文化に関する研究という本事業が目的とする領域からかなり逸脱した、特定の専門的な分野の特殊な問題を扱った論考であったり、あるいは非常に広い視野から有意義な考察を展開してはいるものの、結論部分がこれまでの通説の範囲を出るものではない、などの理由で受賞にいたらなかった。また近年の傾向として、かつてこの事業でなんらかの賞を得た経験のある研究者が新規に論文を投稿するというケースが目立つが、より多くの研究に対する奨励という観点から、再投稿の場合には以前に得た賞よりもより上のランクに該当するものでないかぎり、授賞の対象とされないことを認識されたい。
年を追って本奨励賞の存在が広く認知されるようになり、大学院在籍中の若い研究者、あるいは現職の大学の若手教員などを中心として、投稿論文の質がめざましく向上してきたことは、関係者一同が深く喜びとするところである。さらに今後は学術組織に所属する研究者のみならず、さまざまな問題意識を持って平素から漢字と深くつきあっている一般の方々からの、フレッシュで独創的な研究の成果が一篇でも多く投稿されることを切に願うしだいである。


最優秀賞  西嶋 佑太郎
「日本語医学用語の読みの多様性と標準化―「楔」字を例に―」

いまから150年ほど前の「文明開化」の時代に、日本に近代西洋文明が大量に流入した。それは国家主導の富国強兵政策に連動して、欧米先進国の学術と文化を急激ないきおいで取りこもうとするものであったが、目指した対象がそれまでの伝統的な学術文化とあまりにも異質なものであったために、後世において学問的な矛盾や混乱を生じることが珍しくなかった。
本論考はわが国における医学が近代西洋医学に脱皮する過程において生じた不連続性を用語用字の面からとらえた、他に類例を見ない独創的な研究である。もともと伝統的な医学を担っていた医師たちはほとんどが儒学者でもあり、当漢籍の精読を積極的かつ熱心におこなってきた学者であった。いまの私たちにおなじみである「膵臓」や「腎盂炎」、「潰瘍」、「鬱血」あるいは「骨粗鬆症」など、かなり難しい漢字を使った医学用語が頻出するのはそのためであるが、近代医学は過去の用語を継承するにあたって、それらに対してきめ細かい整理と検討を加えてきたとはいいがたい。現在の医学界で使用される漢字語彙と用字、およびその読音には多くの不統一や混乱が存在しているのが現実である。
著者はいま医学部に在籍する現役の医学生であるが、早く中学三年生の時に漢字検定の1級を取得し、さらに平成19年度には「『杁』という字について」という論文で本賞の佳作を授賞した漢字研究者でもある。その若き学徒が今回は「楔」という漢字を中心に、その字がいまの医学界において実際にどのように使われ、そこにどのような混乱があるかを詳細に調査し、それにもとづいて今後の医学界における用字用語の整理に関する重要な提言をおこなった。現在の医学界には自然科学の領域に秀でた人物が圧倒的に多いが、医師や医学生から用語用字の面に関して伝統的な学術との連続性を提起されることはほとんどなく、その点で著者の研究はきわめて貴重である。著者の学識の広さはいうまでもなく、その視野の広さとこれからの学問のあり方に対する見識が遺憾なく発揮された本論考に最優秀賞を授与することに対して、審査委員全員は迷うことなく同意した。

(阿辻 哲次)

佳作  岡墻 裕剛
「近代日本における基本漢字集合の系譜―『文字のしるべ』・Chinese Characters・「三千字字引」を中心に―」

本論文は、近代の漢字文献の系譜を再検討し、その源流の一つを西洋人たちによって編まれた漢字文献にあると捉えて、矢野文雄、レイ(Lay, Arthur Hyde)、B.H.チェンバレンとその系譜がつながっていたことを追究したものである。
チェンバレンが西洋人のための日本語の文字の入門書『文字のしるべ』(1899)を編纂する際に参照した文献の一つとして、レイによって日本語学習を目的として編まれた『Chinese Characters for the Use of Students of Japanese Language』(1895)があったことを特定し、当該資料にスポットを当てた比較調査を行うことで、それが矢野による新聞における漢字節減案である『三千字字引』(1887) と、『文字のしるべ』というそれぞれ性質を異にする漢字文献を結びつける役割を果たしていたことを解明したものである。
岡墻氏の研究は、個々の資料の文献としての位置や収録された漢字の全体を実証的に捕捉し、ときに個々の字にも検討が及ぶ堅実さを有するものといえ、着々とその成果を蓄積しつつある。今後は、19世紀末の日本における基本漢字選定に果たした西洋人や日本人たちの詳細な状況に加え、さらに現代の諸漢字政策による漢字表まで続く種々の漢字表の史的な変遷を、その時々の漢字使用の個々の実態を踏まえつつ解明していくことが期待される。

(笹原 宏之)

佳作  鄭 艶飛
「『一円進止』と『進退領掌』の四字熟語化について―中古・中世の土地所有語彙の研究―」

「進止」と「進退」は「土地や人間を支配する」意の同義語と考えられてきたが、四字熟語の形成される型に注目して諸文献を調査した結果、その差異が明確になった。「進止」は鎌倉中期から「一円進止」と四字熟語化し、「進退」は平安中期頃から「進退領掌」となる傾向が目立つという。二字熟語相互の意義特徴の近似性がそれぞれの四字熟語の形成に参与したこと、また語順にも特徴のあることが分かる。丹念な追跡による力作である。著者には「一所懸命」の成立や「譜第」と「譜代」についての論文もあり、いずれも中古から中世に至る歴史の研究にも資する。言葉の研究が日本の歴史をも照らし出す好例である。

(森 博達)

佳作  根本 駿
「『懶』の字における意識の変化―字形による区別とその展開―」

「懶」字と、この字の右側を「頁」に作る字との関係性をめぐって、両者が単なる異体字ではなく別字種だとする説の成立した背景について、歴史的観点から考察した論文である。一つの漢字をめぐる議論ではあるが、漢字の安定的運用の力学を視野に入れて具体的に解き明かしている。中国の字書を中心に丹念に調べて実証的に考察されており、かつ論旨の展開も適切で説得力に富むものと評価される。
今後は、さらに日本側の古文献や辞典類にも調査範囲を拡充することで、その具体的な使いざまの実態が見えてくると思われる。また、このような類似した漢字の弁別について歴史的にその流れを追うことによって、どういった原理が働いているかを解明することで、その知見は漢字使用の将来を見通す際にも示唆する点があると思われる。

(山本 真吾)

平成26年度(第9回)実施概要

趣旨

漢字研究、漢字に関わる日本語研究、漢字教育など、広く漢字文化に関わる分野における優れた学術的研究・調査等に対して、その功績をたたえ社会全体に広く公表していく制度です。
将来一層発展することが有望視される、若い世代の清新な学究の優れた研究論文を選考し、更なる深化を奨励するため、懸賞論文形式の「漢検漢字文化研究奨励賞」を設定します。

対象

◆漢字研究または漢字に関わる日本語研究であること。
※漢字に関わる研究を広く対象とする。

◆将来、一層の研究、調査の深化、発展が期待できる若い世代の研究(者)であること。

◆応募者本人が日本語で作成した、48,000字以下の論文であること。
※ただし、図表、註、参考文献、引用文献は字数に入れない

◆既に他に公表した論文(過去3年以内)も対象とする。

  • ※平成23年4月1日以降に提出または刊行した著書を対象とする。
  • ※著書は、論文が元になったものを対象とする。
  • ※他で受賞した論文は対象外とする。

選考委員

阿辻哲次  京都大学大学院人間・環境学研究科教授

笹原宏之  早稲田大学社会科学総合学術院教授

森 博達  京都産業大学外国語学部アジア言語学科教授

山本真吾  白百合女子大学文学部国語国文学科教授   (五十音順)

表彰

正  賞 ・・・・・・・・・・・ 表彰状

副  賞 ・・・・・・・・・・・ 奨励金

  1. 漢検漢字文化研究奨励賞 最優秀賞 100万円
  2. 漢検漢字文化研究奨励賞 優 秀 賞  50万円
  3. 漢検漢字文化研究奨励賞 佳   作  30万円

※但し、該当なしの場合もある。

授賞式  平成27年3月下旬(詳細は後日案内)

応募について

  1. 応募条件
    応募締切日現在で45歳未満である方。
    共同執筆の場合は、すべての執筆者が45歳未満であること。
    共同執筆の場合は、それぞれの執筆分担を論文中に明記すること。

    ※主として、学校等教育・研究機関の教員、研究者、大学院在籍者、教育委員会等の教育行政に携わっている方を想定しております。

  2. 応募方法(自由応募)
    以下の3点を揃え、応募締切日までに郵便もしくは宅配でお送りください。
    1. excel『応募用紙』(当協会所定のもの/238KB)

      ※共同執筆の場合は、執筆代表者のみ当協会所定のものを提出してください。
      他の執筆者は、共同執筆者用応募用紙(応募用紙の別シート)に記入し提出してください。

    2. excel『応募論文の概要』(当協会所定のもの/45KB)
    3. 『応募論文』
      応募論文は次のいずれかの形式でご提出ください。
      1. ワープロ等で作成し、印刷出力したもの
      2. ワード・一太郎仕様のデータFDまたはCD-ROM
      論文の1ページあたりの字数は、1行40字×40行の1,600字にあわせてください。
      (図表、脚注、参考文献、引用文献はこの限りではありません)

      ※応募書類一式は返却いたしませんので、あらかじめコピーをお取りの上、ご提出ください。

  3. 応募締切日
    平成26年10月31日(金)(消印有効)

選考と結果通知

◆当協会選考委員会による選考を行います。
 結果通知...平成26年12月下旬

◆当選作は当協会刊『漢字文化研究』に掲載するとともに、当協会ホームページで公表します。

◆選考結果は封書にて連絡いたします(共同執筆の場合は執筆代表者へ送付)。

応募先および問い合わせ先

〒600-8585 京都市下京区烏丸通松原下る五条烏丸町398
公益財団法人 日本漢字能力検定協会『漢検漢字文化研究奨励賞』係
TEL 0120-509-315(無料)(お問い合わせ時間 月~金 9:00~17:00 祝日・年末年始を除く)
FAX 0570-050-988

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