公益財団法人 日本漢字能力検定協会

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漢検漢字文化研究奨励賞

2024年度(第19回)受賞者発表・講評・論文

2024年度 漢検漢字文化研究奨励賞 受賞者

各賞 受賞者(敬称略) 受賞者所属職位 論文タイトル 講評
最優秀賞 該当無し
優秀賞 山本 久
(ヤマモト ヒサシ)
東京大学大学院
人文社会系研究科
博士後期課程学生
和化漢文における借字表記語彙について
―中世文書の「目出(メデタシ)」を例に―
pdf論文PDF(1.19MB)
講評
佳作 郡司 祐弥
(グンジ ユウヤ)
一橋大学大学院
言語社会研究科
博士後期課程学生
重野安繹の漢字擁護論
——「実用」性の「実証」に基づく漢学の延命として
pdf論文PDF(2.76MB)
講評

※所属・職位は応募当時のもの

講 評

公益財団法人 日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所所長
漢検 漢字博物館・図書館 館長
京都大学名誉教授
阿辻 哲次

 令和6年度漢検漢字文化研究奨励賞は厳正な審査の結果、以下の通り受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげる。
 この事業は、(公財)日本漢字能力検定協会が主催する事業のひとつとして、わが国の文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論・教育方法の開発などを顕彰し、研鑽をたたえ、その成果を世に広めるための制度として平成18年にはじまったもので、今回は第19回目となる。
 新型コロナウイルスによる疾病が蔓延し、我が国のみならず全世界が未曾有の混乱と停滞に陥ったことは今も私たちの記憶に新しい。忌まわしい思い出ではあるが、感染拡大が深刻になった時期では教育・研究機関においても通常業務が遂行できず、ふだんはにぎやかだった人的往来と通常業務が途絶え、講義は変則的になり、図書館や資料室も閉鎖された。そんな時に論文を書いたり、あるいはその準備として資料を調査することにはしばしば支障をきたしたものだった。だがそれにもかかわらず、「本事業には憂うべき特段の変化はなく、ほぼ例年通りの数の投稿があった」と私は昨年の講評に書いた。
 だがそれが今回はいったいどうしたことか、全投稿本数がわずか5本という状況であった。もちろんその中に優れた論考があって、別掲の通り全5本の中から2本が受賞し、他にも十分に高い水準を備えていながら、過去に受賞した賞をランク的に凌駕しきっていないとの理由で選に漏れた論考もあった。
 それにしても、投稿が5本にとどまったことは、近年の投稿事情を考えれば関係者を慨嘆せしめる事実である。だがとりあえずここは「投稿数の多寡にはなんらかの原因による波が存在する」と楽天的に考え、これからもこの顕彰制度を積極的に活用し、目覚ましい研究を発信する若い世代が続々と輩出されることに期待したい。
 ひとつ特筆すべきことがある。
 昨年の本事業では、中学3年生の方から投稿があった。そのことに大いなる感銘を受けたことを私たちは昨日のことのように覚えているが、今回もまた、熱心に漢字研究に取り組んでいる高校2年生の方からの投稿があった。
 現在この事業で審査員の任にある者たちが中学生や高校生だった時代では、斯学の研究を志向し、研究活動に進むためにはまず大量の書物と格闘し、さまざまな文献を扱うための各種の手順を、あたかも徒弟制度のごとき環境に身を置いて、身体で覚えることが必須だった。だが近年のめざましい情報化社会の進展によって、web上に設置された各種のデータベースや工具書、索引などに効率よくアクセスできるようになった。かつてはそれを見るためにかなりの苦労を強いられた国立国会図書館など大きな図書館所蔵の文献が、自宅の部屋のパソコンから簡単な操作で閲覧できるのである。さらにはあれこれ調べて考えた結果を発信するためのツールも、原稿用紙にペン書きという従来の方法からは考えられないほど飛躍的に発展した。
 これまでの世間では、機械文明ときわめてなじみにくいと考えられていた漢字研究にも、いま新しい波が確実に押し寄せている。2年続けて10代の研究者から投稿を受けたという事実は、若い世代の中にもこの領域に熱意をもって旺盛な研究活動に取り組む人がふえているという事実を物語る。
 そんな時代に、この事業が斯学の発展にますます貢献できることを関係者一同切に願う次第である。


優秀賞 山本 久
「和化漢文における借字表記語彙について -中世文書の「目出(メデタシ)」を例に-」

 本論文は、漢文訓読を契機として生じた表現形式を体系的に捉えて整理したうえで、特に「文法化」との関わりが強い、派生借用語と借用統語という形式に着目し、これまでの個別に扱われてきた文法現象の位置づけを目指した論考である。
 訓点語研究の歴史は長く、昭和30年代から急速に発展し今日に至っているが、現在の日本語学、日本語史学のなかではやや特別視される向きもある。訓点語研究は、文献資料に基づく実証的方法を軸として行われてきたが、漢文に訓点を施した文献資料(=訓点資料)の多くは仏教経典であり、また漢籍の古鈔本であって容易に解読できるものではないことから、当該文献資料を深く理解していなければ議論に参加することが難しく、日本語史研究一般の議論に馴染みにくい側面があった。
 本論文は、この閉塞的とも映るような状況を打開した画期的な論文として、高く評価し得るものである。すなわち、訓点語研究の文法現象に関わる知見を「文法化」という一般言語学の枠組みのなかで定位させることにより、言語一般に潜む法則性の解明という議論の場に訓点語研究の成果を巻き込むことに成功にした。
 応募者は、かつて優秀賞を受賞しており、その後の発展が嘱望されていたが、その期待を裏切ることなく優れた論文を着実に発表し続けてきた。研究手法の美点も失われることなく受け継がれているが、今回の応募論文は、この優秀賞の水準を凌駕する秀逸な論考と認められる。優秀賞受賞から今日に至るまで不断の努力がこのような形で結実したことを、審査員一同、心より喜ばしく思うものである。

(山本 真吾)

佳作 郡司 祐弥
「重野安繹の漢字擁護論 ——「実用」性の「実証」に基づく漢学の延命として」

 幕末・明治期の漢学者であり歴史学者でもある重野安繹(やすつぐ)は、漢字を精選して「常用漢字文」(1899年)を編み、また日本初とされる近代的な漢和辞典『漢和大字典』(三省堂編修所編 1903年)の監修者として名を連ねるなど漢字にも深く関わったことが知られている。
 本稿は、近代化が進む時代の潮流の中で、伝統文化の中枢にあった漢字がいかなる位置に据えられてきたのかを、史学において実証主義を提唱した言説に見られる実用性をキーワードとして堅実に分析した労作である。
 当時の文体運動や国語問題に関わる人々における重野の役割を視野に入れ、実用性の実証という面を明らかにする。政策による漢字の延命を企図するなど政治に関与した重野は、政府が漢字を廃止する方向に傾く時代にあって説文会などで活動するようになっていくが、政治的役割を帯びた人物は場面によっては本心を語らないことも想像されるために資料批判を慎重に行うとよいとの指摘もあった。
 独自のテーマ設定と新たな視点からの分析により、漢字文化研究に創見を提示し、また詳しい注記に表れているように資料性にも富む論考である。

(笹原 宏之)

2024年度(第19回)実施概要

趣旨

 漢字研究、漢字に関わる日本語研究、漢字教育など、広く漢字文化に関わる分野における優れた学術的研究・調査等に対して、その功績をたたえ社会全体に広く公表していく制度です。
 将来一層発展することが有望視される、若い世代の清新な学究の優れた研究論文を選考し、更なる深化を奨励するため、懸賞論文形式の「漢検漢字文化研究奨励賞」を設定します。

対象

◆漢字研究または広く漢字に関わる日本語研究であること。

◆将来、一層の研究・調査の深化、発展が期待できる若い世代の研究(者)であること。

◆応募者本人が日本語で作成し、48,000字以下の分量であること。但し、図表、注、参考文献、引用文献は字数に含めない。

◆過去3年以内に公表した論文(※)も対象とする。但し、既に他で受賞した論文は対象外とする。
 また応募の際には既発表論文そのままではなく、さらに最新の知見に基づき深化させたものを求める。

  • ※2021年4月1日以降に提出または刊行したもので、著書の場合は論文が元となっているものを対象とする。

選考委員

阿辻哲次  京都大学名誉教授、(公財)日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所 所長、漢検 漢字博物館・図書館館長

笹原宏之  早稲田大学社会科学総合学術院教授

山本真吾  東京女子大学現代教養学部教授   (五十音順/役職は2024年4月現在)

  • ※投稿論文によって各専門分野の研究者に選考を依頼することがある。

表彰

正  賞 ・・・・・・・・・・・ 表彰状

副  賞 ・・・・・・・・・・・ 奨励金

  1. 漢検漢字文化研究奨励賞 最優秀賞 100万円
  2. 漢検漢字文化研究奨励賞 優 秀 賞  50万円
  3. 漢検漢字文化研究奨励賞 佳   作  30万円

※但し、該当なしの場合もある。

※最優秀賞の副賞については所得税法に従い、所得税等の源泉徴収額を差し引いた上で支払う。

授賞式  2025年3月下旬予定(詳細は後日案内)

応募について

  1. 応募条件
    ・応募締切日時点での満年齢が45歳未満であること。
    ・共同執筆の場合は、応募締切日時点ですべての執筆者の満年齢が45歳未満であること。
    ・共同執筆の場合は、それぞれの執筆分担を論文中に明記すること。
    ・投稿は一年次につき一篇とします。ただし特別の理由がある場合は、事情を斟酌することがあります。
    ・過去に本賞に応募した投稿論文にほとんど修正を施さずに再応募したものは審査対象になりません。
     ただし、本賞の趣旨に沿うように精査し大幅な加筆修正を加えたものは、この限りではありません。
  2. 応募方法
    以下の3点を揃え、応募締切日までに郵便または宅配、もしくはEメールに添付して提出してください。
    1. excel『応募用紙』(当協会所定のもの/75.2KB)

      ※共同執筆の場合は、執筆代表者のみ当協会所定のものを提出してください。
      他の執筆者は、共同執筆者用応募用紙に記入し提出してください。

    2. excel『応募論文の概要』(当協会所定のもの/21.6KB)
    3. 『応募論文』
      応募論文は次のいずれかの形式でご提出ください。
      1. ワープロ等で作成し、印刷出力したもの(他誌掲載論文の抜刷やコピーは不可)
      2. ワード・一太郎仕様のデータUSBまたはCD-ROM
      3. ワード・一太郎仕様のデータまたはPDF(Eメール添付の場合)

      ※『応募用紙』、『応募論文の概要』は、当協会ホームページ(http://www.kanken.or.jp/)からダウンロードするか、電話もしくはFAXにてお問い合わせください。

      ※応募書類一式は返却しませんので、あらかじめコピーをお取りの上、ご提出ください。

      ※Eメール添付の場合、レイアウトの保持・表示・印刷が可能なファイルフォーマットに変換した上で提出してください。

      ※応募論文の末尾に、図表、注、参考文献、引用文献を除いた本文の文字数を明記してください。

  3. 応募締切日
    2024年10月31日(木)(協会必着)

選考と結果通知

◆「漢検漢字文化研究奨励賞」選考委員会による選考を行います。
 結果通知…2024年12月下旬

◆受賞論文は当協会刊『漢字文化研究』に掲載するほか、当協会のホームページや機関誌、書籍等、当協会が適当と認めた媒体で発表します。

◆選考結果は封書にて連絡いたします(共同執筆の場合は執筆代表者へ送付)。

※受賞対象とならなかった場合は、その理由は開示いたしません。

応募先・問い合わせ先

〒605-0074 京都市東山区祇園町南側551番地
公益財団法人 日本漢字能力検定協会「漢検漢字文化研究奨励賞」係
TEL:0120-509-315 月~金 9:00~17:00(祝日・お盆・年末年始を除く)
Eメール:kbk(at)kanken.or.jp  ※(at)は@に置き換えてください。

●個人情報に関する注意事項●

  • 記入して頂いた個人情報は、「漢検漢字文化研究奨励賞」に関わる業務にのみ使用します。
    (ただし、本件に関わる業務に際し、業務提携会社に作業を委託する場合があります。)
  • 個人情報の記入は任意ですが、必須項目に記入がない場合は申請の受理ができないこともございますので、
    ご注意ください。
  • 個人情報に関する開示、訂正等のお問い合わせは、下記の窓口へお願いします。
    公益財団法人 日本漢字能力検定協会 個人情報保護責任者 事務局長
    個人情報相談窓口 https://www.kanken.or.jp/privacy/

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