公益財団法人 日本漢字能力検定協会

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漢検漢字文化研究奨励賞

2021年度(第16回)受賞者発表・講評・論文

2021年度 漢検漢字文化研究奨励賞 受賞者

各賞受賞者(敬称略)論文タイトル講評
最優秀賞 該当無し
優秀賞 該当無し
佳作 飯田 祥子 公益財団法人古代学協会
客員研究員
五一広場東漢簡牘の上行文書に関する基礎的整理
pdf論文PDF(1.35MB)
講評
佳作 張 愚 中山大学外国語学院
副教授
構文的特徴と意味の相関性からみた漢語「迷惑」の変容
pdf論文PDF(5.74MB)
講評
佳作 方 国花 奈良文化財研究所
客員研究員
」と「甕」の比較からみた文字伝播ルート
―古代出土文字資料の例を中心に―
pdf論文PDF(3.45MB)
講評

講 評

京都大学名誉教授
(公財)日本漢字能力検定協会漢字文化研究所所長
阿辻 哲次

 2021年度漢検漢字文化研究奨励賞は厳正な審査の結果、以下の通り受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげる。
 この事業は、(公財)日本漢字能力検定協会が主催する事業のひとつとして、わが国の文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論・教育方法の開発などを顕彰し、研鑽をたたえ、その成果を世に広めるための制度として平成18年にはじまったもので、今回は第16回目となる。
 かつてこの事業において応募論文が極端に少なく、やむなく締め切りを延長して再募集したこともあったが、その後時間を追うごとに、受賞された研究者たちが学界でめざましい成果をあげ、それとともにこの事業が社会に広く認知され、投稿論文数は増えつづけた。
 だが今年度は、悲しいことに投稿が6本にとどまった。それがここ数年の新型コロナウイルスによる感染蔓延で、「緊急事態宣言」が発令されるという異常な事態に起因するものかどうかはわからない。だが投稿者のほとんどが教員または大学院生として過ごす大学において、もうずいぶん長いあいだ通常の形態での講義がおこなわれず、研究上の問題をめぐって対面による質問や議論がおこなえない状況が続いている。さらに大きな混乱として、図書館が使えなかったり、一定期間にわたって大学に入れなかったりと、円滑な研究活動をさまたげる要因が随所に存在したことは事実であり、それはこの事業に対しても、決して無縁でなかったであろう。
 だが、少ないとはいえ6本の投稿のすべてがかなり高度な水準を示すものだったことは、審査員一同が等しく喜びと感じたところであった。
 いつもながらのことであるが、不幸にして受賞対象とならなかった論考の中にも、興味深い研究があった。しかしうちの1本はかつて受賞した著者による論考であり、二度目以後の受賞においては前回を上回る評価が条件となるため、審査員の中で判断が分かれ、惜しくも今回は受賞にいたらなかった。また別のも興味深い論考では、考察に使った資料に関する厳密な資料批判や検討が不十分であるとの意見が出て、受賞にいたらなかった。どうかこれに懲りず、さらに一層の研鑽をふまえた力作の投稿を心より期待する。
 長く続く疫病蔓延が社会全般にもたらす危機はまことに深刻で、これからの事態の展開についてもまったく予断を許さない。そんな危機的な状況の中で研究活動を継続することには、おおいなる精神的負担と種々の困難などがつきまとうであろう。だがそれでも、この事業に対して、これまで以上に画期的で独創的な研究が一篇でも多く投稿されることを関係者一同は切望している。


佳作 飯田 祥子
「五一広場東漢簡牘の上行文書に関する基礎的整理」

 20世紀に開拓された古文字研究の一つに出土簡牘資料を扱う領域があり、それは羅振玉・王国維にはじまり、民労榦による居延漢簡の考証などで基礎が確立され、さらに近年には郭店楚簡など戦国期竹簡の研究を通じて、古代中国の歴史や思想について、その実像がかなり深くまで明らかにされてきた。だが近年の発見は膨大な量に及び、研究の中心はともすれば新出土資料の整理と釈読が中心になりがちで、実際にそれらの簡牘を書いた現場の「史」たちが文書をどのように送達し、そこにいかなるシステムがあったのかなどについては、まだそれほど深く究明されてはいない。
 本稿は、後漢時期の木簡について、簡牘に記される内容の分析だけにととどまらず、発信者と受信者との関係による記述形態や書写の外面的要素を分析し、そこから吏の勤務形態と行文の関係を跡づけようとする。その着目点は非常に斬新であって、審査会においても本稿の意義が十全に認識され、さらに異なった資料を通じての研究の深化を期待して、全会一致での受賞となった。

(阿辻 哲次)

佳作 張 愚
「構文的特徴と意味の相関性からみた漢語「迷惑」の変容」

 日本語における漢語受容史の研究は、これまでもさまざまな研究が行われ、相当の蓄積がある。しかし、日中両言語は、言語類型論的に見れば、膠着語と孤立語という大きく異なった言語であることもまた事実である。本論文は、この異なりに着目し、日本語における漢語語彙の文法的特徴、品詞性の認定という問題に取り組み、文中における当該漢語の構文的特徴を軸に、受容された漢語の意味変化を辿るという記述方法を試みたものである。具体的には、「迷惑」という現代語としても馴染みのある漢語を取り上げ、古代中国語の本来の意味用法を押さえたうえで、日本語における受容過程について、文献資料を丹念に調査し記述しており、構文的特徴をものさしにすることで日本語語彙としての漢語の品詞性の認定がより客観的にできると説く。調査対象とした日中の文献資料は膨大であり、その意味用法を分析するためには一文一文の精密な読解作業が不可欠であるが、これを完遂し、説得力に富む論文に仕上がっている。先行研究も網羅的、かつ適切に踏まえられており、好論と言える。今後の見通しも末尾に記すとおりであって、発展性に富む考察であると評価され、佳作に相応しいと認めた。

(山本 真吾)

佳作 方 国花
「「」と「甕」の比較からみた文字伝播ルート―古代出土文字資料の例を中心に―」

 「ミカ」という和訓をもつカメ類の土器に「」と「甕」(及び異体字「瓮」)がある。本稿は東アジアの木簡や刻書・墨書などの出土資料及び正倉院文書などの古文書を用いて、両者の用法の違いやその原因を追究して、漢字伝播ルートの一端を明らかにした。
方氏によれば、日本では8世紀前半を境として「」から「甕」へ使用が変わり、「」は百済、「甕」は新羅の影響という。韓国の出土文字資料では、「甕」は新羅に木簡3例、刻書土器1例、「」は百済に刻書土器が2例ある。また福岡県牛頸窯跡群では「」字の刻書土器が5点出土している。この近辺には8世紀初めまで多くの百済人がおり、この「」字土器は百済の影響だという。九州では「豊後国正税帳」(737年)に見られるように「甕」字も使われている。この状況は漢字文化伝来における百済から新羅への影響の変遷を象徴する。
 東アジアの漢字文化全体を俯瞰できる才能は貴重で、今後とも研究の発展が期待される。

(森 博達)

2021年度(第16回)実施概要

趣旨

 漢字研究、漢字に関わる日本語研究、漢字教育など、広く漢字文化に関わる分野における優れた学術的研究・調査等に対して、その功績をたたえ社会全体に広く公表していく制度です。
 将来一層発展することが有望視される、若い世代の清新な学究の優れた研究論文を選考し、更なる深化を奨励するため、懸賞論文形式の「漢検漢字文化研究奨励賞」を設定します。

対象

◆漢字研究または広く漢字に関わる日本語研究であること。

◆将来、一層の研究・調査の深化、発展が期待できる若い世代の研究(者)であること。

◆応募者本人が日本語で作成し、48,000字以下の分量であること。但し、図表、注、参考文献、引用文献は字数に含めない。

◆過去3年以内に公表した論文(※)も対象とする。但し、既に他で受賞した論文は対象外とする。

  • ※2018年4月1日以降に提出または刊行したもので、著書の場合は論文が元となっているものを対象とする。

選考委員

阿辻哲次  京都大学名誉教授、(公財)日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所 所長

笹原宏之  早稲田大学社会科学総合学術院教授

森 博達  京都産業大学名誉教授

山本真吾  東京女子大学現代教養学部教授   (五十音順/役職は2021年4月現在)

表彰

正  賞 ・・・・・・・・・・・ 表彰状

副  賞 ・・・・・・・・・・・ 奨励金

  1. 漢検漢字文化研究奨励賞 最優秀賞 100万円
  2. 漢検漢字文化研究奨励賞 優 秀 賞  50万円
  3. 漢検漢字文化研究奨励賞 佳   作  30万円

※但し、該当なしの場合もある。

※最優秀賞の副賞については所得税法に従い、所得税等の源泉徴収額を差し引いた上で支払う。

授賞式  2022年3月下旬予定(詳細は後日案内)

応募について

  1. 応募条件
    ・応募締切日時点での満年齢が45歳未満であること。
    ・共同執筆の場合は、応募締切日時点ですべての執筆者の満年齢が45歳未満であること。
    ・共同執筆の場合は、それぞれの執筆分担を論文中に明記すること。
    ・投稿は一年次につき一篇とします。ただし特別の理由がある場合は、事情を斟酌することがあります。
    ・過去に本賞に応募した投稿論文にほとんど修正を施さずに再応募したものは審査対象になりません。
     ただし、本賞の趣旨に沿うように精査し大幅な加筆修正を加えたものは、この限りではありません。
  2. 応募方法
    以下の3点を揃え、応募締切日までに郵便または宅配、もしくはEメールに添付して提出してください。
    1. excel『応募用紙』(当協会所定のもの/329KB)

      ※共同執筆の場合は、執筆代表者のみ当協会所定のものを提出してください。
      他の執筆者は、共同執筆者用応募用紙に記入し提出してください。

    2. excel『応募論文の概要』(当協会所定のもの/43.5KB)
    3. 『応募論文』
      応募論文は次のいずれかの形式でご提出ください。
      1. ワープロ等で作成し、印刷出力したもの(他誌掲載論文の抜刷やコピーは不可)
      2. ワード・一太郎仕様のデータUSBまたはCD-ROM
      3. ワード・一太郎仕様のデータまたはPDF(Eメール添付の場合)

      ※『応募用紙』、『応募論文の概要』は、当協会ホームページ(http://www.kanken.or.jp/)からダウンロードするか、電話もしくはFAXにてお問い合わせください。

      ※応募書類一式は返却しませんので、あらかじめコピーをお取りの上、ご提出ください。

      ※Eメール添付の場合、レイアウトの保持・表示・印刷が可能なファイルフォーマットに変換した上で提出してください。

      ※応募論文の末尾に、図表、注、参考文献、引用文献を除いた本文の文字数を明記してください。

  3. 応募締切日
    2021年10月29日(金)(協会必着)

選考と結果通知

◆「漢検漢字文化研究奨励賞」選考委員会による選考を行います。
 結果通知…2021年12月下旬

◆受賞論文は当協会刊『漢字文化研究』に掲載するほか、当協会のホームページや機関誌、書籍等、当協会が適当と認めた媒体で発表します。

◆選考結果は封書にて連絡いたします(共同執筆の場合は執筆代表者へ送付)。

応募先・問い合わせ先

〒605-0074 京都市東山区祇園町南側551番地
公益財団法人 日本漢字能力検定協会「漢検漢字文化研究奨励賞」係
TEL:0120-509-315 月~金 9:00~17:00(祝日・お盆・年末年始を除く)
Eメール:kbk(at)kanken.or.jp  ※(at)は@に置き換えてください。

●個人情報に関する注意事項●

  • 記入して頂いた個人情報は、「漢検漢字文化研究奨励賞」に関わる業務にのみ使用します。
    (ただし、本件に関わる業務に際し、業務提携会社に作業を委託する場合があります。)
  • 個人情報の記入は任意ですが、必須項目に記入がない場合は申請の受理ができないこともございますので、
    ご注意ください。
  • 個人情報に関する開示、訂正等のお問い合わせは、下記の窓口へお願いします。
    公益財団法人 日本漢字能力検定協会 個人情報保護責任者 事務局長
    個人情報相談窓口 https://www.kanken.or.jp/privacy/

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