漢検漢字文化研究奨励賞
2019年度(第14回)受賞者発表・講評・論文
2019年度 漢検漢字文化研究奨励賞 受賞者
各賞 | 受賞者(敬称略) | 論文タイトル | 講評 | |
---|---|---|---|---|
最優秀賞 | 該当無し | |||
優秀賞 | イシヤマ ユウジ 石山 裕慈 |
神戸大学大学院人文学研究科 准教授 |
日本漢字音における「一字複数音」の歴史 論文PDF(1.27MB) |
講評 |
佳作 | ナカノ ナオキ 中野 直樹 |
常葉大学短期大学部 助教 |
『高僧伝』の古訓法について ―伝記類訓読の一例― 論文PDF(2.11MB) |
講評 |
佳作 | リュウ センカ 劉 鮮花 |
一橋大学大学院言語社会研究科 博士後期課程五年生 |
漢字統一会に関する一考察 ―清国と韓国の反応を中心として― 論文PDF(1.59MB) |
講評 |
講 評
京都大学名誉教授
公益財団法人 日本漢字能力検定協会漢字文化研究所所長
阿辻 哲次
2019年度漢検漢字文化研究奨励賞は厳正な審査の結果、以下の通り受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげる。
この事業は、(公財)日本漢字能力検定協会が主催する事業のひとつとして、わが国の歴史を通じて文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論・教育方法の開発などを顕彰し、研鑽をたたえ、その成果を世に広めるための制度としてはじまったもので、今回は第14回目にあたる。
選考を終えたあと毎回ふりかえることだが、過去には応募する投稿論文が非常に少なく、そのため締め切りを延長して再募集せざるを得なかったという苦い経験もあった。しかしその状況を打開するため、過去3年以内という制限を設けて既発表の論文に修正を加えて投稿することを可能にしたところ、回を追うごとに投稿論文数が増え、論考の質もずいぶん高くなっていったことは、まことによろこばしい。
今回も締め切りが近づくまで1~2本の投稿しかなく、関係者をやきもきさせたが、締め切り直前になって駆けこみの投稿がつづき、結果的に合計9本の論考が寄せられた。
ただ今回の投稿にまったく問題がなかったわけではなく、うちの一つは、同一著者が近似するテーマについて論じた論考が3本含まれていたことであった。これまでに公開されている投稿規定には、同一著者による複数投稿に関する規定がなかったため、この複数投稿についてもひとまずは受理し、審査の対象とすることとなった。
選考を終えたあと、この複数投稿問題について事務局と審査委員のあいだであらためて取り扱いを協議した。たとえばある研究者が多年にわたって異なるテーマの研究に従事し、その成果を一度に発表されたとか、あるいは投稿に関する年齢制限にかかわるなど、特定の事例においては複数投稿がやむを得ないと考えられる場合も想定されないわけではない。しかし今回の事例はきわめて近似した題目を扱うものであって、複数本の論考にする必然的な理由が見いだせなかった。このような諸点を議論した結果、「格別の理由がない限り、同一著者による同時の複数投稿を認めない」旨を投稿規定に加えることとした。
それ以外にもう一つ、今回にはこれまでに事例がなかった投稿があった。それは昨年投稿され、受賞の対象とならなかった論考を、ほとんど手を加えずにそのまま再投稿されたものであり、さらに投稿表には「厳正な審査を期待する」という主旨の文言が記載されていた。これまでのすべての回において、すべての投稿論文に対して厳正かつ公平な審査をおこなってきたことについては審査委員全員がゆるぎない自信をもっており、「厳正な審査」でなかったことは一度もないと断言する。受賞しなかったことには、もちろん相応の理由がある。したがって、ほとんど同一の論考を再投稿されても、同じ委員が審査する限り、評価が変わることはありえない。それは自明のことがらであって、そのことをあらためて投稿規定に記載する必要もないと我々は考える。
年を追って本奨励賞の存在が広く認知されるようになってきたという感を関係者はいっそう強くしており、またこれまでに2回開催された日本漢字学会の大会における発表を通じて、多くの若い方々が種々のテーマで活発な研究活動を展開されている事実が見てとれる。斯界にはさまざまな問題意識を持って平素から漢字と深くつきあっている方々がたくさんおられる。そのような方々からも、フレッシュで独創的な研究の成果が一篇でも多く投稿されることを、関係者一同は切に希望する。
優秀賞 石山 裕慈
「日本漢字音における「一字複数音」の歴史」
日本漢字音における漢音と呉音のような「一字複数音」の性質や歴史を検討した研究である。例えば「言語」は呉音ではゴンゴ(「言語道断」)、漢音ではゲンギョであるが、現在では一般にゲンゴと読まれる。漢音と呉音の混淆の結果だとまでは誰しもが考える。そこを一歩踏み込んで、いつ・どのように・なぜ、混淆や一元化が起こったのかと追究した。この問いかけこそが貴重であり、成功の出発点である。
石山氏はまず、中近世の『論語』の漢字音における「漢字音の一元化」の影響とその反作用の鬩ぎあいを指摘し、つぎに中世以降の呉音資料で「シュ」と「シュウ」の選択において、韻学的な知識による書き分けと「一元化」という、相反する作用がともに働いていると説く。意表を突く分析結果ではないが、先行研究を踏まえつつ実証的で納得のゆく論考となった。
(森 博達)
佳作 中野 直樹
「『高僧伝』の古訓法について ―伝記類訓読の一例―」
日本における漢文訓読の主要な方式は原漢文に日本語的要素(返点や読み仮名)を付加し、その訓点に従って読み下すというものである。この訓点資料を対象とした訓点語研究は、日本語史の主軸に据えられ、長年の研究の蓄積がある。これまでの知見によれば、時代ごとにその訓法に変遷が認められることが指摘されており、さらに、加点者の社会的属性(僧俗の別、宗派門流などの相違)に応じて、訓法に変異が認められることなども明らかにされてきた。訓点資料の多くは畿内を中心とした寺院経蔵に伝わるものであって、実地に原本を調査し、移点本文を作成して検討を重ねるという迂遠とも思える膨大な作業が前提となることから、他の資料研究と同様、昨今の若手研究者からは敬遠されがちであった。
本論文は、オーソドックスな方法により、実地に訓点資料の原本調査を行った成果に基づき、これまであまり顧みられることのなかった「伝記類」という典籍のジャンルに着目し、その訓法の変異について考究しており、一定の成果を生み出している。今後はさらに訓点資料の調査を拡充し、また、切り口もその資料性に即して新たな視点を開拓することが望まれる。若手研究者の減少が嘆かれる当該分野において、本論文はきちんと時間をかけ穏当な結論を導き出しており、審査委員全員一致で、佳作に値するものと判断した。
(山本 真吾)
佳作 劉 鮮花
「漢字統一会に関する一考察 ―清国と韓国の反応を中心として―」
本稿は、漢字統一会に焦点を当て、この組織が1907年に成立した経緯と動向、それに対する清国と韓国の反応について考察したものである。伊沢修二立案の『同文新字典』は一部で注目された辞典ではあったが、当研究によってその位置付けも明確となった。
中国、韓国では、自国語に民族性を守ろうとして同会を警戒しつつも、それぞれの自国語改革の思想のために同調する意識が読み取られている。さらにそこには、自国の漢字廃止論者への対策として漢字を擁護した面もあったことを見出した。
審査会において、本稿は思想面での検討を中心とするものであり、具体的な漢字・漢語に関する一層の検討と記述の充実を期待する意見が複数挙がった。また、韓国の当時の新聞記事を調査して手際よくまとめているが、自ら述べるとおり韓国における反対派の言説についても記述が必要であろう。今後さらなる調査研究の進展が期待できるものでもあり、全会一致での受賞となった。
(笹原 宏之)
2019年度(第14回)実施概要
趣旨
漢字研究、漢字に関わる日本語研究、漢字教育など、広く漢字文化に関わる分野における優れた学術的研究・調査等に対して、その功績をたたえ社会全体に広く公表していく制度です。
将来一層発展することが有望視される、若い世代の清新な学究の優れた研究論文を選考し、更なる深化を奨励するため、懸賞論文形式の「漢検漢字文化研究奨励賞」を設定します。
対象
◆漢字研究または広く漢字に関わる日本語研究であること。
◆将来、一層の研究・調査の深化、発展が期待できる若い世代の研究(者)であること。
◆応募者本人が日本語で作成し、48,000字以下の分量であること。但し、図表、注、参考文献、引用文献は字数に含めない。
◆過去3年以内に公表した論文(※)も対象とする。但し、既に他で受賞した論文は対象外とする。
- ※平成26年4月1日以降に提出または刊行したもので、著書の場合は論文が元となっているものを対象とする。
選考委員
阿辻哲次 京都大学名誉教授、(公財)日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所 所長
笹原宏之 早稲田大学社会科学総合学術院教授
森 博達 京都産業大学名誉教授
山本真吾 東京女子大学現代教養学部教授 (五十音順/役職は2019年4月現在)
表彰
正 賞 ・・・・・・・・・・・ 表彰状
副 賞 ・・・・・・・・・・・ 奨励金
- 漢検漢字文化研究奨励賞 最優秀賞 100万円
- 漢検漢字文化研究奨励賞 優 秀 賞 50万円
- 漢検漢字文化研究奨励賞 佳 作 30万円
※但し、該当なしの場合もある。
※副賞は、所得税および復興特別所得税の源泉徴収額を差し引いた上で支払う。
授賞式 2020年3月下旬予定(詳細は後日案内)
応募について
- 応募条件
・応募締切日時点での満年齢が45歳未満であること。
・共同執筆の場合は、応募締切日時点ですべての執筆者の満年齢が45歳未満であること。
・共同執筆の場合は、それぞれの執筆分担を論文中に明記すること。 - 応募方法
以下の3点を揃え、応募締切日までに郵便または宅配、もしくはEメールに添付して提出してください。- 『応募用紙』(当協会所定のもの/329KB)
※共同執筆の場合は、執筆代表者のみ当協会所定のものを提出してください。
他の執筆者は、共同執筆者用応募用紙に記入し提出してください。 - 『応募論文の概要』(当協会所定のもの/46.5KB)
- 『応募論文』
応募論文は次のいずれかの形式でご提出ください。- ワープロ等で作成し、印刷出力したもの(他誌掲載論文の抜刷やコピーは不可)
- ワード・一太郎仕様のデータFDまたはCD-ROM
- ワード・一太郎仕様のデータまたはPDF(Eメール添付の場合)
※『応募用紙』、『応募論文の概要』は、当協会ホームページ(http://www.kanken.or.jp/)からダウンロードするか、電話もしくはFAXにてお問い合わせください。
※応募書類一式は返却しませんので、あらかじめコピーをお取りの上、ご提出ください。
※Eメール添付の場合、レイアウトの保持・表示・印刷が可能なファイルフォーマットに変換した上で提出してください。
※応募論文の末尾に、図表、注、参考文献、引用文献を除いた本文の文字数を明記してください。
- 『応募用紙』(当協会所定のもの/329KB)
- 応募締切日
2019年10月31日(木)(協会必着)
選考と結果通知
◆「漢検漢字文化研究奨励賞」選考委員会による選考を行います。
結果通知…2019年12月下旬
◆受賞論文は当協会刊『漢字文化研究』に掲載するほか、当協会のホームページや機関誌、書籍等、当協会が適当と認めた媒体で発表します。
◆選考結果は封書にて連絡いたします(共同執筆の場合は執筆代表者へ送付)。
応募先・問い合わせ先
〒605-0074 京都市東山区祇園町南側551番地
公益財団法人 日本漢字能力検定協会「漢検漢字文化研究奨励賞」係
TEL:0120-509-315 月~金 9:00~17:00(祝日・お盆・年末年始を除く)
Eメール:km(at)kanken.or.jp ※(at)は@に置き換えてください。
●個人情報に関する注意事項●
- 記入して頂いた個人情報は、「漢検漢字文化研究奨励賞」に関わる業務にのみ使用します。
(ただし、本件に関わる業務に際し、業務提携会社に作業を委託する場合があります。) - 個人情報の記入は任意ですが、必須項目に記入がない場合は申請の受理ができないこともございますので、
ご注意ください。 -
個人情報に関する開示、訂正等のお問い合わせは、下記の窓口へお願いします。
公益財団法人 日本漢字能力検定協会 個人情報保護責任者 事務局長
個人情報相談窓口 https://www.kanken.or.jp/privacy/
事業・活動情報
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調査・研究活動
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漢検漢字文化研究奨励賞
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- 2020年度(第15回)受賞者発表・講評・論文
- 2019年度(第14回)受賞者発表・講評・論文
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漢検漢字文化研究奨励賞
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