公益財団法人 日本漢字能力検定協会

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漢検漢字文化研究奨励賞

2020年度(第15回)受賞者発表・講評・論文

2020年度 漢検漢字文化研究奨励賞 受賞者

各賞受賞者(敬称略)論文タイトル講評
最優秀賞 該当無し
優秀賞 カサイ タイチ
葛西 太一
日本学術振興会特別研究員PD 日本書紀β群の表現とその特質
pdf論文PDF(1.02MB)
講評
優秀賞 グエン・ティー・トゥー・フエン
Nguyễn Thị Thu Huyền
富山大学大学院人文科学研究科修士課程2年 ベトナム加点資料の句読点から見た訓読の可能性
pdf論文PDF(1.85MB)
講評
佳作 スズキ ユウヤ
鈴木 裕也
京都大学大学院文学研究科博士後期課程・日本学術振興会特別研究員 改編本『類聚名義抄』における和音注の継承と増補について
pdf論文PDF(601KB)
講評
佳作 トノウチ シュンスケ
戸内 俊介
二松学舎大学文学部准教授 「不」はなぜ「弗」と發音されるのか
―上中古中國語の否定詞「不」「弗」の變遷―
pdf論文PDF(833KB)
講評

講 評

京都大学名誉教授
公益財団法人 日本漢字能力検定協会漢字文化研究所所長
阿辻 哲次

 2020年度漢検漢字文化研究奨励賞は厳正な審査の結果、以下の通り受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげる。
 この事業は、(公財)日本漢字能力検定協会が主催する事業のひとつとして、わが国の文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論・教育方法の開発などを顕彰し、研鑽をたたえ、その成果を世に広めるための制度として平成18年にはじまったもので、今回は第15回目となる。
 これまでの選考においては、投稿される応募論文が極端に少なく、締め切りを延長して再募集したこともあったが、それも今は昔の話、直近の10年以上の時間にわたって投稿論文数は増えつづけ、今回も高い水準を備えた論考が合計13本寄せられた。この事業が若い研究者に広く認知されていることの証しであると、関係者一同ひそかに矜持するところである。
 さらに今年度においては、新型コロナウイルスによる疾病が蔓延し、「緊急事態宣言」が発令されて、日常的な行動が多方面において制約を受けていたにもかかわらず、かくも多数の投稿があったことはまことに特筆にあたいする。教育機関では対面形式による授業さえおこなえず、大学では図書館が閉館されたり資料の貸出閲覧が予約制になったり、さらに研究室はおろか、大学構内にすら入ることができない時期もあった。そんな研究活動の円滑な進展をはばむ未曾有の事態の中でも、この事業を通じて若い世代が研究に邁進する姿を看取することができたのは、斯学のこれからの一層の発展を予感させるものとしてまことによろこばしい。
 残念ながら受賞の対象とならなかった論考の中にも、興味深い研究がいくつもあった。しかしそれは、たとえばタイトル末尾に(上)とある未完の論考であったり、あるいは考察に使った資料について選択の恣意性が感じられ、客観的な検討と資料批判が欠如しているなど、いくつかの点で未熟さを感じさせるものであった。
 以前にもあったことだが、他の刊行物に掲載された論考のコピーをそのまま投稿してきた事例があった。これは応募に関して「他誌掲載論文の抜刷やコピーは不可」とある規定に抵触することから審査の対象とされなかった。投稿に際しては、投稿要領に遵守していただくことをここにあらためてお願いする。
 もともと本事業は大学院在籍や若手教員など、これからの漢字研究を牽引していく世代の研究を顕彰することを目的としてはじまったものだが、回を重ねるにつれて、大学において教授職にある研究者からも投稿が寄せられるようになった。むろん投稿資格に合致していれば教授からの投稿も歓迎するが、本来の趣旨から、若い世代の挑戦と奮起をより一層期待する。
 疫病蔓延の危機は深刻で、事態の展開については予断を許さないが、そんな危機的な状況の中でも、これまで以上にフレッシュで独創的な研究が一篇でも多く投稿されることを関係者一同は切望している。


優秀賞 葛西 太一
「日本書紀 β 群の表現とその特質」

 『日本書紀』30巻は表記の性格によって、α群(巻14~21・24~27)、β群(巻1~13・22~23・28~29)、巻30に三分され、この順序で述作されたことも知られている。葛西論文は文末定型表現「~縁也。」と介詞「頼」について、それらの分布と特徴を調べ、α・β両群の新たな叙述の性格を明らかにした。まず「~縁也。」は32例すべてがβ群に偏在することを指摘し、その縁起を述べる着想は漢籍ではなく仏典から得た可能性が高いと説く。
 つぎに「頼~」はβ群に9例、α群に6例見られるが、その賓語に相違があると指摘する。α群は「天皇」、β群は「天神・皇祖・三宝」といった天皇を超越した霊威が来るという。皇祖神アマテラスはβ群述作時に誕生したが、それに合わせて統治の拠り所を、天皇自身を超越した皇祖等の霊威に置くことを表現したと説く。
 両群の表記の相違が、発想や叙述内容の相違に則していることが究明されたのである。この分野の最も優秀な若手研究者を顕彰でき、長年の審査委員として感慨深いものがある。

(森 博達)

優秀賞 Nguyễn Thị Thu Huyền(グエン・ティー・トゥー・フエン)
「ベトナム加点資料の句読点から見た訓読の可能性」

 日本語における漢文訓読の研究は早くから着手され、相当の成果が蓄積されているが、近年の新たな動向として、漢字文化圏に属する諸言語における漢文文献の読解という、東アジアの広い視野から訓読の多様性を明らかにする作業を踏まえて、あらためて日本語の訓読方法を相対化して捉え直そうとする研究が見られるようになった。
 本論文は、ベトナム加点資料を取り上げ、特殊な句読点に注目することで、漢文本文に自言語であるベトナム語を符号によって直接加点する方法が存在した可能性を指摘したものであり、創見に富む高水準の論考である。本論文で明らかにした知見の意義は、単にベトナム語の問題にとどまらず、韓国の音読口訣との近似性ならびに日本の訓読法の特殊性をも見通すものであって、この点も高く評価されてよい。
 今後は、応募者も述べているように、句読点以外の、科段、破音、朱引等に注目することにより、さらに語彙や文体の研究への拡充が期待される。審査委員一同、当該領域における優れた若手研究者の出現を慶ぶものであり、優秀賞が妥当と認めた。

(山本 真吾)

佳作 鈴木 裕也
「改編本『類聚名義抄』における和音注の継承と増補について」

 本賞の受賞対象となった論文には、これまでも『類聚名義抄』を取り上げたものがいくつかあった。この漢和字書は、古代日本の漢字・漢文訓読語に関わる研究者にとってバイブル的な存在であり、古代の漢文文献を扱ううえで、必ず参照しなければならない、最重要の古辞書である。ただ昨今の当該辞書を扱う研究は、やや射程が狭かったり、仮説を前提とした実証性に欠けるものが多かったりという憾みがあった。本論文は、和音注に着目して、原撰本から改編本諸本の継承・増補のあり方を丹念に調査することで改編の意図を解明し、さらにこの知見を踏まえて諸本の系統関係を明らかにしようとした、視野の広い論考である。証拠固めのための徹底したデータ収集および的確な整理と、緻密で周到な論理構成により結論を導き出しており、説得力に富む堅実な論文に仕上がっている。今後は、当該辞書を通して、日本語における漢字の「音」意識のあり方をも探ろうとしている。他の若手研究者も模範としてもらいたい論文であり、将来に期待を込めて佳作に相応しいと認めた。

(山本 真吾)

佳作 戸内 俊介
「「不」はなぜ「弗」と發音されるのか ―上古中國語の否定詞「不」「弗」の變遷―」

 否定詞「不」の発音が通時的に舒声から入声に変遷した理由を、文化的背景や語用論的側面から考察した興味深い論文である。
 「弗」は「不+之」の合音であったが、前漢期を通して機能的対立が消失し、「弗」は「不」の強意型の否定詞となったと説く。また前漢昭帝「弗陵」の避諱を契機として、「弗」が「不」に書き換えられ、さらに否定的意味を明確にするため「不」を「弗」音で発音するようになったという。当初の否定副詞が弱まると、何らかの付加語によって強化する「イェスペルセンのサイクル」と呼ばれる現象が関わっていると推測したのである。望蜀ではあるが、他の可能性を潰してゆけば、さらに説得力を増しただろう。
 戸内氏は大著『先秦の機能語の史的変遷―上古中国語文法化研究序説―』で金田一京助賞も受賞されている。すでに研究方法を確立しているので、今後とも中国語の様々な演変現象について新たな発見を重ねられるものと期待される。

(森 博達)

2020年度(第15回)実施概要

趣旨

 漢字研究、漢字に関わる日本語研究、漢字教育など、広く漢字文化に関わる分野における優れた学術的研究・調査等に対して、その功績をたたえ社会全体に広く公表していく制度です。
 将来一層発展することが有望視される、若い世代の清新な学究の優れた研究論文を選考し、更なる深化を奨励するため、懸賞論文形式の「漢検漢字文化研究奨励賞」を設定します。

対象

◆漢字研究または広く漢字に関わる日本語研究であること。

◆将来、一層の研究・調査の深化、発展が期待できる若い世代の研究(者)であること。

◆応募者本人が日本語で作成し、48,000字以下の分量であること。但し、図表、注、参考文献、引用文献は字数に含めない。

◆過去3年以内に公表した論文(※)も対象とする。但し、既に他で受賞した論文は対象外とする。

  • ※2017年4月1日以降に提出または刊行したもので、著書の場合は論文が元となっているものを対象とする。

選考委員

阿辻哲次  京都大学名誉教授、(公財)日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所 所長

笹原宏之  早稲田大学社会科学総合学術院教授

森 博達  京都産業大学名誉教授

山本真吾  東京女子大学現代教養学部教授   (五十音順/役職は2020年4月現在)

表彰

正  賞 ・・・・・・・・・・・ 表彰状

副  賞 ・・・・・・・・・・・ 奨励金

  1. 漢検漢字文化研究奨励賞 最優秀賞 100万円
  2. 漢検漢字文化研究奨励賞 優 秀 賞  50万円
  3. 漢検漢字文化研究奨励賞 佳   作  30万円

※但し、該当なしの場合もある。

※最優秀賞の副賞については所得税法に従い、所得税等の源泉徴収額を差し引いた上で支払う。

授賞式  2021年3月下旬予定(詳細は後日案内)

応募について

  1. 応募条件
    ・応募締切日時点での満年齢が45歳未満であること。
    ・共同執筆の場合は、応募締切日時点ですべての執筆者の満年齢が45歳未満であること。
    ・共同執筆の場合は、それぞれの執筆分担を論文中に明記すること。
    ・投稿は一年次につき一篇とします。ただし特別の理由がある場合は、事情を斟酌することがあります。
    ・過去に本賞に応募した投稿論文にほとんど修正を施さずに再応募したものは審査対象になりません。
     ただし、本賞の趣旨に沿うように精査し大幅な加筆修正を加えたものは、この限りではありません。
  2. 応募方法
    以下の3点を揃え、応募締切日までに郵便または宅配、もしくはEメールに添付して提出してください。
    1. excel『応募用紙』(当協会所定のもの/329KB)

      ※共同執筆の場合は、執筆代表者のみ当協会所定のものを提出してください。
      他の執筆者は、共同執筆者用応募用紙に記入し提出してください。

    2. excel『応募論文の概要』(当協会所定のもの/46.5KB)
    3. 『応募論文』
      応募論文は次のいずれかの形式でご提出ください。
      1. ワープロ等で作成し、印刷出力したもの(他誌掲載論文の抜刷やコピーは不可)
      2. ワード・一太郎仕様のデータFDまたはCD-ROM
      3. ワード・一太郎仕様のデータまたはPDF(Eメール添付の場合)

      ※『応募用紙』、『応募論文の概要』は、当協会ホームページ(http://www.kanken.or.jp/)からダウンロードするか、電話もしくはFAXにてお問い合わせください。

      ※応募書類一式は返却しませんので、あらかじめコピーをお取りの上、ご提出ください。

      ※Eメール添付の場合、レイアウトの保持・表示・印刷が可能なファイルフォーマットに変換した上で提出してください。

      ※応募論文の末尾に、図表、注、参考文献、引用文献を除いた本文の文字数を明記してください。

  3. 応募締切日
    2020年10月30日(金)(協会必着)

選考と結果通知

◆「漢検漢字文化研究奨励賞」選考委員会による選考を行います。
 結果通知…2020年12月下旬

◆受賞論文は当協会刊『漢字文化研究』に掲載するほか、当協会のホームページや機関誌、書籍等、当協会が適当と認めた媒体で発表します。

◆選考結果は封書にて連絡いたします(共同執筆の場合は執筆代表者へ送付)。

応募先・問い合わせ先

〒605-0074 京都市東山区祇園町南側551番地
公益財団法人 日本漢字能力検定協会「漢検漢字文化研究奨励賞」係
TEL:0120-509-315 月~金 9:00~17:00(祝日・お盆・年末年始を除く)
Eメール:km(at)kanken.or.jp  ※(at)は@に置き換えてください。

●個人情報に関する注意事項●

  • 記入して頂いた個人情報は、「漢検漢字文化研究奨励賞」に関わる業務にのみ使用します。
    (ただし、本件に関わる業務に際し、業務提携会社に作業を委託する場合があります。)
  • 個人情報の記入は任意ですが、必須項目に記入がない場合は申請の受理ができないこともございますので、
    ご注意ください。
  • 個人情報に関する開示、訂正等のお問い合わせは、下記の窓口へお願いします。
    公益財団法人 日本漢字能力検定協会 個人情報保護責任者 事務局長
    個人情報相談窓口 https://www.kanken.or.jp/privacy/

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