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高校

「普通」=「普遍」の価値を身につけた生徒を輩出するために/高校/東京

学校長 渡邉 重範 先生

関東 / 東京

[私立] 早稲田実業学校中等部・高等部

学校長 渡邉 重範 先生

1.「普通」のことを「普通」に行える人を育てたい

 昨今の日本の教育界では、「学級崩壊」や「教養崩壊」など、様々な問題が指摘されています。ですが、私はもっと根本的な部分における「常識崩壊」こそが、問題の根源であると考えています。
 人はとかく「特別」という言葉を好みがちです。ですが、「あなたは特別である」という言葉は、言われた本人に悪影響を及ぼす恐れがあります。実は「特別」な人など存在せず、人は皆「普通」の存在であるからです。教育現場で大切にすべきは、「特別」な事柄ではなく「普通」の事柄なのです。ここで言う「普通」とは、「並み」という意味ではありません。他者と比較して人並みであることが大切なのではなく、絶対存在として普遍的なものを大切にすべきだという意味です。普遍的なものとは、即ち失われつつある「常識」でありましょう。英語で言えば「common」ということになります。

 本校では、「普通」のことを「普通」に行える人材を輩出したいと考えています。そして、本校の生徒に育んで欲しい「普通」のこととは、主に以下の3点と考えています。

(1)どんな状況になろうとも、「不撓不屈」の精神でその状況に向き合うことができること
(2)「フェアネス(公正さ・公平さ)」を心に刻み付けていること
(3)人に対する「優しさ」、他者に対する無限の「想像力」を持っていること

 私は「豊かな社会」とは、即ち「多様な社会」であると考えています。全ての個人が受け入れられ大事にされる、そのような社会が理想であると思います。「豊かな社会」に生きる人々には、他者の多様性を受容し、他者と協調できなくてはなりません。上記3点の「普通」のことが備わっていない人々に、「豊かな社会」を創造することは不可能でしょう。

 本校は早稲田大学の系属校であり、卒業生のほとんどが早稲田大学に進学します。初等部も含めれば、小中高大一貫教育ということになります。そのことに安住して、今学ぶべきことを疎かにし、先送りしようとする生徒が居ることも事実です。初等教育では初等教育の、中等教育では中等教育の、それぞれに学ぶべきことがあるにもかかわらずです。
 よって、各教育段階で履修すべきことを、きちんと履修させることを、本校の教育方針の基本においています。つまりは、「普通」のことを「普通」に行えるようにすることに他なりません。

2.生徒に身につけて欲しい「普通」を支える3つの普遍的な「基礎学力」

・「基礎学力」(1)- 言葉に対する厳密さ

 人間とは社会的な動物であり、誰しも一人で生きていくことはできません。他者との関係性無くして、自我は成立し得ないのです。人が他者と関わる時、相手にどの程度心を開くのか、あるいは閉じるのか。これに関して自己決定することは、社会的人間として最低限の責任です。全く心を閉じてしまっては、関係性自体が生まれ得ません。自分の心の中を素直にありのままに表現するための、最低限の努力は行わなくてはならないのです。
 そして、そのための最大のツールは言葉です。自分の考えや思想を他者に伝達するためには、言葉を用いる以外にありません。日本には古来より「以心伝心」「阿吽の呼吸」といった、言葉を用いない相互理解が美しいとされる文化伝統がありますが、これは言葉を尽くした上での話です。通常は言葉にしなければ伝わらないことの方が圧倒的に多いのです。
 本校の生徒には、言葉に対する厳密さを身につけて欲しいと考えています。ともすると曖昧になりがちなのが、日本語の特徴です。ひとつひとつの言葉を大切にし、その意味を問うていくことは非常に重要なのです。言葉を知ることなくして、自分の思想を形成していくこと自体が不可能だからです。その人の持つ言葉と思想は、密接に連動していると考えます。

 余談ですが、私は早稲田大学でも講義を行っているのですが、そこで感じる大学生の言葉の力の低下には、目を覆うものがあります。私が講義で話している語彙を、頭の中で漢字に変換できないため、その意味が分からず、ノートに書き取ることができないのです。例えば、「煩悶」や「真摯」などは、正確な漢字は書けないまでも、音を聞いて文脈から意味内容を推測できてしかるべきでしょう。このような事例は枚挙に暇がありません。私が本校の生徒に、中高までの間に言葉の力をつけさせたいと考えている背景のひとつです。

・「基礎学力」(2)- 抽象的なものから具体的なイメージを形成する力

 昨今、若年層の読書量の低下が社会問題になっています。書物を読むときは、抽象的な文字の羅列で表現された内容を、自分の頭の中でイメージにしていきます。想像力を働かせて、頭の中に像を結びながら読み進むのです。実はこの思考プロセスが非常に重要であると考えています。例えば、先述した「豊かな社会」という抽象的な言葉を聞いて、そこから具体的に「豊かな社会」とはどういうものなのかをイメージしていく。この想像するというプロセスを省いては、「豊かな社会」は創造できないのですから。そして、書物を読む時も、具体的イメージを思考する時も、人は言葉を用います。ここでも、言葉に対する厳密さが問われるのです。
 現代は社会全体が、この抽象的なものから具体的なイメージを形成するというプロセスを軽視しているように感じます。発信者側が既にある程度固定化したイメージを押し付け、受信者側はそのことに気付いていないという構造になっていると感じます。

・「基礎学力」(3)- 最低限のことを怠らない姿勢

 「言葉に対する厳密さ」「具体的イメージ形成力」を身につけるための近道はありません。読書を継続し、分からない言葉があれば辞書を引いて意味を問い、読み仮名をふるなど、地道な作業を継続する以外にありません。そういった、最低限のことを怠らない姿勢こそが、本校の生徒に最も身につけてもらいたい基礎力と言えます。

3.普遍的な「基礎学力」を身につけさせるための指導例

・指導例(1)- 抽象的なことを具体化する訓練「月間目標」

 毎月ある言葉を「月間目標」として選定し、生徒達に発表しています。敢えて抽象的な言葉を選ぶことで、それについて思いを馳せる機会、考えてみる機会を与えています。例えば「どんなに状況が変わっても、時間だけは全ての人に中立である」「自分の喉の渇きは、自分の心の泉から汲まねばならぬ(ゲーテ『ファウスト』より)」などの言葉です。これらの言葉は、まさに普遍の価値が含まれています。これらの言葉ひとつひとつを吟味しながら味わい、思考する訓練になるのです。

・指導例(2)- 具体的イメージをもって体を動かす「文武両道」

 「文武両道」の徹底も、本校が重視している指導のひとつです。本校の生徒達には、学力以外のもうひとつの軸を持ちなさいと常々言っています。それはスポーツに限らず、文化活動でも何でも良いのです。学力という縦軸以外のもうひとつの横軸を持てば、自分の能力は掛け算で伸びていきます。学びで得た知識や思考力を駆使して、実際に体を動かすことと連動させるのです。野球の練習をする時も、ただ漠然とメニューをこなすのではなく、「二死満塁のピンチ」などの具体的な場面をイメージしながら行うことが重要です。これもつまりは、言葉を厳密に用いて思考し、抽象化された練習メニューから具体的イメージを結ぶことに他なりません。

・指導例(3)- 言葉の力を育成しつつ、小さな勇気を与える「日本漢字能力検定」

 「漢検」への取り組みは、言葉の力を育成することはもちろん、合格を通して「やればできる」という小さな勇気を与える機会としても活用しています。

4.最後に

 これらの「基礎学力」は、ある一定の時期にある一定のレベルまで身につけなくては、その後の伸びは期待できません。特に中学時代にどれだけ身につけたかは、その後に及ぼす影響がとても大きいと思います。このような「基礎学力」の重要性を社会全体が再認識するためには、様々な立場の人々が声を合わせて、社会全体の「うねり」にしていく必要があると考えます。


※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。

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