本文へスキップ

価値創造型人材に必要な日本語力

コミュニケーションの原点にある「読書」、そして「対話」

日色 保さんの写真

日色 保

ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 代表取締役社長

1965年愛知県生まれ。88年静岡大学人文学部卒業。ジョンソン・エンド・ジョンソン入社、2012年日本法人社長。18年日本マクドナルド入社、19年日本マクドナルド社長。25年ウォルト・ディズニー・ジャパン入社・現職。

2026年09月17日

読書やアルバイトでの多様な経験から培われたコミュニケーション力、そしてディズニーの仕事の核にある「対話」の価値についてうかがいました。

読書で育んだ、コミュニケーションの土台となる言葉の力

質問:── まず、子どもの頃のお話からお聞かせください。

子どもの頃の自分を振り返ると、特別に何かに秀でていたという意識は全くありません。名古屋で育ちましたが、ごく普通の子どもだったように思います。外で遊ぶのも好きでしたし、本を読むのも好きでした。

家の近くに図書館があり、外で遊んだ帰りにふらりと立ち寄ることがよくありました。読んでいたのは、江戸川乱歩の『怪人二十面相』シリーズや、星新一の『ショートショート』作品でした。ほかにも『シャーロック・ホームズ』シリーズやSF作品などを好んで読んでいました。当時は特に意識していませんでしたが、今振り返ると、読書を通じて登場人物の人生や価値観を疑似体験していたように思います。文章には、映像のような完成された答えがありません。同じ一文であっても、読む人によって浮かぶ情景は異なるはずです。同じ本でも、大人になってから読むとまったく違う印象を受けるのは、自分自身の経験が増え、受け取り方が変わるからでしょう。「余白」があることこそが、文章の面白さだと感じています。大学に入学してからは、新聞もよく読むようになりました。新聞にはニュースだけでなく、小説やコラム、論説なども掲載されています。さまざまな文章の形式が一つの紙面に収められている媒体は、実はそれほど多くありません。そうした意味でも、新聞は非常によくできた読み物だと思っています。

質問:── 学生時代はどのように過ごされていたのでしょうか。

高校生から大学生にかけて、多くのアルバイトを経験しました。居酒屋やレストラン、測量の手伝い、コンサートの警備、家庭教師など、仕事の種類はさまざまです。引っ越し作業のアルバイトでは、冷蔵庫を担いで階段を使い、3階や4階まで運んだこともありました。

そうした経験を通じて、世の中には本当に多様な人がいて、それぞれ異なる価値観や仕事や人生において大切にしている行動原則(discipline)があるということを実感しました。年齢も立場も異なる人たちと一緒に働く中で、言葉遣いや距離感、場の空気の読み方が自然と身についていったのだと思います。家庭と学校以外に、多くの大人がいる環境があったことは、今振り返ると非常に大きな意味を持っていました。

当時から「コミュニケーション力を鍛えよう」と意識していたわけではありませんが、様々な経験をしたことで、結果として立場や年齢、背景の異なる人に対しても話すことに対する抵抗感は少なくなっていったように感じます。

経済同友会の看板の前に立つ日色 保さん
日色 保さん
質問:── 社会に出られてからはいかがでしたか。

社会人として最初に勤めたのは、ジョンソン・エンド・ジョンソンという外資系の医療機器メーカーでした。外科手術の現場に立ち会い、ベテランの医師と向き合う日々が続きました。そこには麻酔のかかった患者さんがいて、わずかなミスも許されない緊張感のある環境に社会人1年目から身を置いたことで、学生気分は一気に消えました。コミュニケーション力にはある程度の自負がありましたが、仕事の現場で求められるのは、「言われたことをこなす」ことではなく、「責任を引き受ける」姿勢なのだということを強く実感しました。

また、営業というと「どう売るか」ということに意識が向きがちですが、特にヘルスケアの分野では、それでは通用しません。重要なのは、医師が何を成し遂げようとしているのか、その目標に対して自分がどのように貢献できるかを考えることです。すなわち、「相手の成功」を起点に発想することです。そのためには、相手を想像し、丁寧に観察する力が欠かせません。診察室に入った際に、どのような本が置かれているのか、どのような物が飾られているのか。そうした小さな情報を積み重ねることで、対話の質が大きく変わるということを学びました。

続きを読む ── ストーリーと対話が生み出す『AI時代にも変わらぬ価値』

「相手の目標のために、自分には何ができるのかを考え続ける」。この姿勢によって信頼関係が築かれるという考え方は、その後、どの仕事に就いても変わっていません。

続きを読む →
ページ
トップ