2025年度(第20回)受賞者発表・講評・論文
講評
公益財団法人 日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所所長
漢検 漢字博物館・図書館 館長
京都大学名誉教授
阿辻 哲次
令和7年度漢検漢字文化研究奨励賞は厳正な審査の結果、以下の通り受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげる。
この事業は、(公財)日本漢字能力検定協会が主催する事業のひとつとして、わが国の文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論・教育方法の開発などを顕彰し、研鑽をたたえ、その成果を世に広めるための制度として平成18年にはじまったもので、今回は第20回目となる。
本事業がはじまったばかりで、研究者たちにもまだ認知されていなかった頃には投稿される応募論文が少なく、一度は締め切りを延長して再募集するという苦い経験まであったが、本事業が若き研究者たちに認知されはじめると、相当に高い水準を備えた論考が投稿されるようになり、今回も力作7本が投稿された。
数年前にはコロナウイルスによる疾病が世界的に蔓延し、日常生活のみならず学界まで未曾有の異常事態に陥り、研究活動が多大の制約を受けたが、その災禍も少なくとも表面上は平穏化したと見え、しだいに積極的な研究活動が随処で展開されてきた。
とりわけめざましいのが高校在学中の学生をはじめとする若い世代の活躍で、一昨年は15歳の方から、昨年は16歳の方からの投稿があったが、今回も17歳の高校生が、従来取りあげられていない斬新なテーマに切り込み、周到にして熱意あふれる調査をともなった論考を投稿してこられた。
この論考は残念ながら受賞の対象とならなかったが、それは内容の到達度もさることながら、学術論文執筆に習熟していないことに発する問題点が散見されたことが大きい。
具体的な一例を挙げると、ある事柄を論証するのに『日本国語大辞典』の記述だけを論拠とするのではなく、学術論文では『日国』が使った原資料に遡及しーーそれはほとんどの場合可能であるーーその原典における当該事項のあり方を分析し、その結果をふまえて議論を展開することが要求される(簡単にいうと、『日国』が間違っている可能性も考慮すべきだ、ということである)。
だが論考が取りあげた斬新な主題や、議論の前提となる旺盛な問題意識について、審査委員と事務局一同は深い感銘を受けたことをここに附言しておく。これに懲りず、今後一層の研鑽を積んで、再度のチャレンジを心から期待する。
この論考に象徴されるように、近年の情報化社会のめざましい進展にともなって、漢字研究にいま新しい波が押し寄せている。2018年に成立した日本漢字学会は、25年12月に第8回研究大会を開催したが、そこにも旺盛な熱意と斬新な視野をもった10代の学徒が研究発表をおこなった。
この奨励論文事業が、これからの若い世代からの研究を社会に発進する場を提供できるとすれば、関係者一同それに過ぎる喜びはない。
優秀賞 康 凱欣
和漢聯句専門韻書の利用実態
なお康氏は、本稿公表以後も、新たな調査研究の成果を通してこの結論を側面から補強している。専門性の高い考証は、和製韻書の工具書としての役割を明らかにするとともに、和漢聯句の実作の場における漢字使用時の字種選択の一つの理由を解明するものであり、日本における漢字文化の実態究明に貢献するものとして高く評価され、優秀賞に値するものと認められた。
(笹原 宏之)
佳作 王 竣磊
近世唐音における声調の扱い
もちろん近世唐音に関する資料の中には、声調に言及する文献も少なからず存在するが、しかしそれらに関する先行研究は乏しく、多くの資料がほぼ手つかずで残されてきた。
本論文はこれまでほとんど注目されなかったそんな近世唐音資料を、点と圏での加点形態などによって4種類に分類し、それぞれの分析を通じて、その特質と問題点などを明らかにしようとする。
従来ほとんど手をつけられることがなかった領域に焦点を当て、周到な調査をおこなった本研究は、今後の新領域を開拓する展望を有するものと期待される。
(阿辻 哲次)
佳作 宮武 衛
蒼蒼とした月について
和漢比較文学研究、漢語受容史研究の模範的な記述となっており、今後は、「蒼々」と「蒼天」との関係、和語「あをじろなり」の意味、さらには日本漢詩文における畳語の意味用法など多くの課題が見えてきたように思う。今回の受賞をきっかけとしてさらなる発展を期待したい。
(山本 真吾)
2025年度(第20回)実施概要
趣旨
漢字研究、漢字に関わる日本語研究、漢字教育など、広く漢字文化に関わる分野における優れた学術的研究・調査等に対して、その功績をたたえ社会全体に広く公表していく制度です。
将来一層発展することが有望視される、若い世代の清新な学究の優れた研究論文を選考し、更なる深化を奨励するため、懸賞論文形式の「漢検漢字文化研究奨励賞」を設定します。
対象
- 漢字研究または広く漢字に関わる日本語研究であること。
- 将来、一層の研究・調査の深化、発展が期待できる若い世代の研究(者)であること。
- 応募者本人が日本語で作成し、48,000字以下の分量であること。但し、図表、注、参考文献、引用文献は字数に含めない。
- 過去3年以内に公表した論文(※)も対象とする。但し、既に他で受賞した論文は対象外とする。
また応募の際には既発表論文そのままではなく、さらに最新の知見に基づき深化させたものを求める。
2022年4月1日以降に提出または刊行したもので、著書の場合は論文が元となっているものを対象とする。
選考委員
- 阿辻 哲次
- 京都大学名誉教授、(公財)日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所 所長、漢検 漢字博物館・図書館館長
- 笹原 宏之
- 早稲田大学社会科学総合学術院教授
- 山本 真吾
- 東京女子大学現代教養学部教授
(五十音順/役職は2025年4月現在)
投稿論文によって各専門分野の研究者に選考を依頼することがある。
表彰
- 正賞
- 表彰状
- 副賞
- 奨励金
- 漢検漢字文化研究奨励賞 最優秀賞100万円
- 漢検漢字文化研究奨励賞 優秀賞50万円
- 漢検漢字文化研究奨励賞 佳作30万円
但し、該当なしの場合もある。
最優秀賞の副賞については所得税法に従い、所得税等の源泉徴収額を差し引いた上で支払う。
- 授賞式
- 2026年3月下旬予定(詳細は後日案内)
応募について
1.応募条件
- 応募締切日時点での満年齢が45歳未満であること。
- 共同執筆の場合は、応募締切日時点ですべての執筆者の満年齢が45歳未満であること。
- 共同執筆の場合は、それぞれの執筆分担を論文中に明記すること。
- 投稿は一年次につき一篇とします。ただし特別の理由がある場合は、事情を斟酌することがあります。
- 過去に本賞に応募した投稿論文にほとんど修正を施さずに再応募したものは審査対象になりません。
ただし、本賞の趣旨に沿うように精査し大幅な加筆修正を加えたものは、この限りではありません。
2.応募方法
以下の3点を揃え、応募締切日までに郵便または宅配、もしくはEメールに添付して提出してください。
-
『応募用紙』(当協会所定のもの)
共同執筆の場合は、執筆代表者のみ当協会所定のものを提出してください。
他の執筆者は、共同執筆者用応募用紙に記入し提出してください。 -
『応募論文の概要』(当協会所定のもの)
-
『応募論文』
応募論文は次のいずれかの形式でご提出ください。
- 1.ワープロ等で作成し、印刷出力したもの(他誌掲載論文の抜刷やコピーは不可)
- 2.ワード・一太郎仕様のデータUSBまたはCD-ROM
- 3.ワード・一太郎仕様のデータまたはPDF(Eメール添付の場合)
『応募用紙』、『応募論文の概要』は、当協会ホームページ(http://www.kanken.or.jp/)からダウンロードするか、電話もしくはFAXにてお問い合わせください。
応募書類一式は返却しませんので、あらかじめコピーをお取りの上、ご提出ください。
Eメール添付の場合、レイアウトの保持・表示・印刷が可能なファイルフォーマットに変換した上で提出してください。
応募論文の末尾に、図表、注、参考文献、引用文献を除いた本文の文字数を明記してください。
3.応募締切日
2025年10月31日(金)(協会必着)
選考と結果通知
- 「漢検漢字文化研究奨励賞」選考委員会による選考を行います。
結果通知...2025年12月下旬 - 受賞論文は当協会刊『漢字文化研究』に掲載するほか、当協会のホームページや機関誌、書籍等、当協会が適当と認めた媒体で発表します。
- 選考結果は封書にて連絡いたします(共同執筆の場合は執筆代表者へ送付)。
受賞対象とならなかった場合は、その理由は開示いたしません。
応募先・問い合わせ先
〒605-0074 京都市東山区祇園町南側551番地
公益財団法人 日本漢字能力検定協会「漢検漢字文化研究奨励賞」係
TEL:0120-509-315 月~金 9:00~17:00(祝日・お盆・年末年始を除く)
Eメール:kbk(at)kanken.or.jp ※(at)は@に置き換えてください。
個人情報に関する注意事項
- 記入して頂いた個人情報は、「漢検漢字文化研究奨励賞」に関わる業務にのみ使用します。
(ただし、本件に関わる業務に際し、業務提携会社に作業を委託する場合があります。) - 個人情報の記入は任意ですが、必須項目に記入がない場合は申請の受理ができないこともございますので、ご注意ください。
- 個人情報に関する開示、訂正等のお問い合わせは、下記の窓口へお願いします。
公益財団法人 日本漢字能力検定協会 個人情報保護責任者 事務局長
個人情報相談窓口へ