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基礎学力を考える 企業トップインタビュー

株式会社ポーラ・オルビスホールディングス / 株式会社ポーラ

鈴木 郷史 氏

代表取締役社長 鈴木 郷史 氏

1954年静岡県生まれ。1979年早稲田大学大学院理工学研究科修了後、株式会社本田技術研究所に入社。1986年株式会社ポーラ化粧品本舗(現株式会社ポーラ)に総合調整室長として入社。新規事業開発室長、IS事業部長、ポーラ化成工業株式会社代表取締役社長等を歴任後、2000年より現職。公職では、財団法人ポーラ美術振興財団理事長、社団法人日本訪問販売協会会長等を務める。

1.全ては「感情」から始まる

 企業が本当に欲しがっているのは、人間としての「感情」をきちんと持っている人材、つまり「情操力」を持った人材なのです。「情操」という字は、自分や他人の「感情」を「操る」と書きます。「自分がどう感じるのか」という「感情」から全ては始まるのです。それが「自分はどうしたいのか」という「欲求」や「思い」へと繋がっていくのです。
 私は社員に、まずは状況の観察をしなさいとよく言います。観察というのは、表面的に目に見える部分だけを見ることではありません。それは、単なる結果に過ぎないからです。その結果が起きた原因や背景まで含めて見ることを観察というのです。そして、観察した後に湧き出てくる「感情」こそを大切にしなさいと言っています。
 それが、あらゆる人間の活動の原点、基礎基本であると思っています。どんなに素晴らしいことを言っても、そこに「感情」がこもっていなければ、信頼感も説得力も生まれないのです。
 当社の現場の販売員達が、お客様と直接コミュニケーションを取る時に、単なる商品説明に留まることなく、「この商品を使うとあなたの人生はこう変わります」という部分まで伝えられることが大切です。そのベースには、「お客さまにこうなって欲しい」「お客さまに喜んで欲しい」という「感情」「欲求」「思い」があるはずです。
 「情操力」豊かな人間集団であること ―― それこそが、会社が社会から高い評価を受けるための絶対条件だと考えます。

2.「情操力」を鍛えるために

 情操教育というと、音楽鑑賞や美術館見学などのイメージが強いかと思います。ですが、私は人と人との触れ合いこそが情操を育むと考えます。様々な人に出会い、人間に対して興味を持つこと。そして、自分も社会の一員であること、人間も自然の一部であることを感じてほしい。そういう経験を通して、「情操力」が育まれます。
 まだ私が幼かった頃の記憶の中で、いくつか強く印象に残っている場面があります。静岡の実家に地域の人がたくさん集まっていた場面や、当社の本社ビル竣工の除幕式をやらせてもらった場面などです。いろいろな人たちと、場や空気を共有したという経験。それらが多様であればあるほど、「感情」も豊かになるし、深い「情操力」を育むことになるのだと思います。
 よく「空気が読めない社員」というのがいますが、そのような資質にも、経験の豊富さが強く影響していると思います。当社の場合は、本来ビジネスパートナーであるはずのポーラレディ(販売員)や店舗オーナーまでお客さま扱いしてしまい、懐に入れない、厳しいことが言えないという社員が散見されます。これもある種、相手との関係性や自分の役割を読みきれない、つまり「空気が読めない」ということだと思います。
 そして、「感情」は言葉で表されます。「感情」を表す語彙が貧困であるということは、「感情」に変化がないということと同義です。結果として、そこから生まれてくる「欲求」や「思い」にもバリエーションが少ないということになります。「情操力」を磨くためには、言葉の力も重要な要素です。

3.ブランド価値に輝きを与えるのは「脳の回路に眠る言葉達」

鈴木 郷史 氏 私がさらに大切にしたいのは、表に出てこない「脳の回路に眠る言葉達」です。それを言語化して人に伝えたい時に、どのような言葉を選択するのか、どのような態度や眼差しを持って伝えるのか、そのような機微にこそ、人間としてのプラスアルファが出てくると思います。それは、時には気遣いであったり、時には愛情であったりします。
 現場から離れている本社社員は、とかく顧客への機微を忘れてしまいがちです。そこで、本社の人材教育や組織文化の有りようを変えるべく、2002年に新しいポーラの企業理念 POLA VALUE を打ち出しました。

POLA VALUE
私たちは一人ひとりの「もっと美しくありたい」を知り、
まごころと技術でお客さまを生涯サポートします。

 私は、この「ありたい」という言葉に拘りました。美しさとは、なるという欲求的なものではなく、自然にあることが最も美しい。それが日本の美意識です。また、「知る」という言葉にも拘りました。「分析する」「ニーズを把握する」などの言葉ではダメなのです。目に見えないものを知ることで、初めて人を感動させることができるのです。
 私は、サン=テグジュペリの『星の王子さま』が大好きなのですが、その中に有名なセリフがあります。「心で見なくちゃ物事は分からないんだ。大切なことは目に見えないんだよ。」
  即物的に目に見えるものだけを言語化できても駄目なのです。心で想像・思考したことを、言葉によって像に結んでいくことが大切なのです。逆説的にいえば、心で物を見るためには、想像力や思考力はもちろん、高い言語能力も必要であると言えるのです。
 言葉というのは深い意味を持っています。わずか1文字の違いでも、読み手に伝わるニュアンスは変わります。「脳の回路に眠る言葉達」を、その微妙なニュアンスも含めて分かり易い言葉に変換できなくてはならないのです。それはつまり、目に見えない大切なことや、自分の「感情」「欲求」「思い」を、表からも見える形に変換することに他なりません。そこから感じ取れる機微が、ポーラという会社の発散するブランドイメージに繋がっていくのです。

4.当社社員に求められる「美意識」と言語能力

 当社では、今年(2007年)から新しい人事制度を導入します。新制度では、ゼネラリスト(知識労働者)に限らず、技術者や職人といった人材にもスポットを当てていこうとしています。
  新しい人事制度では、「仕事」と「人」ふたつの基準で評価を行います。評価の内容は以下の通りです。

「仕事」→それぞれの職種ごとに与えられた「果たすべき使命(ミッション)」の大きさと、それをどこまで果たせたか?
「 人 」→当社の社員に求められる「能力要件(コンピテンシー)」を定義し、それを満たしているか?

 「人」基準の評価に関して、当社では20種類のコンピテンシーを定義しています。その中で、当社ならではのコンピテンシーとして「美意識」という項目を置いています。それは、「独自の美意識を養い、それをライフスタイル・言葉・態度・行動に一致させ、印象付ける力」と定義しています。言葉に一致させて印象付けるわけですから、言葉の力も当然問われます。また、その他のコンピテンシーとして「思考力」や「対人影響力」といった項目もあります。

 これらのことからも分かるように、当社のコンピテンシーを支えるものは、高い言語能力と言えるでしょう。当社の社員にとって「目に見えないものを言語化し、他者と共有していく能力」は必須のものといえます。

5.学生のみなさんへのメッセージ

 新卒採用の役員面接を毎年行っていますが、学生からよく受ける質問があります。「残り1年間の学生生活で、何をすれば良いですか」という質問です。私は「今こそ学生時代にしか出来ないこと、つまり勉強をしなさい」とアドバイスしています。そのような質問をする学生は、往々にしてアルバイトやNPOなどの社会活動に熱心な人が多いようです。
 このことに、私は違和感を感じます。無理に「社会人」というものに溶け込もうとしている印象を受けます。今は勉強に面白みを感じないかもしれませんが、将来必ずどこかで役に立ちます。学生の本分としてやるべきことを、しっかりやってきて欲しいと思います。


※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。

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