第13回 今、あなたに贈りたい漢字コンテスト高校生部門 受賞作品
「帰」
お父さん へ
長女 より
私の留学中、会えなくて寂しくなる度に盆栽を買い続けた父。帰国して家に帰ってみれば、家は小さな森状態。こんなに会いたがってくれてたんだと感動したのは良いものの、私が家に戻ってきた今も、なぜか盆栽は増え続けている。お父さん。私、帰ってきたよ。
西谷 幸歩 さん
大阪府・17歳・大阪金剛インターナショナル高等学校
「命」
戦争をしている国 へ
高校生 より
命という漢字の上の部分を取ると、叩くという字になります。戦争とは、命を削り合い、叩き、壊していく行為です。私は今、戦争をしている国にこの「命」という字を贈ります。一つ一つの命の重さに気づき、その命を叩く行為をやめてほしいと願います。
須藤 絆匠 さん
神奈川県・16歳・湘南学院高等学校
受賞者コメント
私が「命」という漢字を選択した理由は、この課題に取り組んでいるとき、ふと戦争のニュースを耳にしたからです。戦争の被害を受けている地域の様子や、親族を亡くして泣いている人々の映像を見たとき、たくさんの命が簡単に失われていると感じました。本来、命は何ものにも代えがたい大切なもののはずなのに争いによって一瞬で奪われてしまう現実。たった一つの命を簡単に失ってよいのでしょうか。互いを削り合い、叩き合って、いったい誰が喜び、誰が得をするのでしょうか。そんなことは誰も望んでいません。途絶える「命」を途絶えない「命」に変え、一つ一つの命の重みを多くの人に気づいてほしいと思います。また、このコンテストを通じて私は漢字に対する意識が大きく変化しました。以前は、命という言葉を当たり前のものとして捉えていました。しかし、戦争の映像やニュースに触れていく中でそれが決して当然に存在するものではなく、一つの出来事で失われてしまうほどもろいものだと実感するようになり、未来や希望ごと消えてしまうことに気づきました。この経験から、命という漢字が持つ重さや尊さを強く意識するようになりました。
審査員からのコメント
協会賞、おめでとうございます。
命は、「口」と「令」から成り、「人に言いつける」「神の命令」「天からの授かりもの」を表し、「いのち」の意味にもなる会意文字です。したがって、「叩く」の意味はありませんが、漢字をまっさらな気持ちで眺め、自由な発想で字の意味を考えてみるのはおもしろく楽しいですね。
ただ、そうした観察から「命」に「叩」くを見つけ、戦争をしている国にまで想いを巡らすとき、悲しい気持ちになりますね。
現代でも使われる世界最古の文字である漢字を通じて、世界に命の重さ、大切さを発信していきたいものだと、改めて考えさせられる作品でした。
山崎信夫
「権」
十八歳の私 へ
十七歳の私 より
十八歳になったあなたにはたくさんの権利がある。そしてその権利をどう使うのかもあなたが選択できる。一歳の差で私たちはこんなにも違う。十八歳の私の一つ一つの選択が未来をつくる。権利には責任が伴うことを忘れないで。
小田 百花 さん
静岡県・17歳・静岡県立伊豆伊東高等学校
受賞者コメント
この度は、数多くの応募の中から選んでいただき、誠にありがとうございます。まさか自分がこのような賞をいただけるとは思っておらず、大変うれしく思っております。
成人年齢が十八歳に引き下げられ、クラスの中でも成人した人とそうでない人がいる状況に、不思議さを感じました。成人になることでさまざまな権利を得る一方、その責任の重さを改めて意識し、自分自身を戒めるきっかけにしたいという思いから、この作品を制作しました。
私は今後進学し、外国語を学びます。海外の文化に触れるとともに、日本の文化を世界に発信できるような役割を担える存在を目指していきたいと思います。
審査員からのコメント
「権」の字ははかりの意味に由来するとされます。そこから「他を支配し、従わせる力や個人が自由に行い、また他人に要求や主張ができる、認められた資格」といった意味が派生しました。
私事になりますが、一昨年から友人と日本語を研究しています。特に、明治時代以前、日本には概念がなく、西洋語を翻訳したことで世間に広まった翻訳語に注目しています。「権利」もそのひとつです。rightを翻訳するために様々な人が議論し、その過程では「権利」と「権理」両方の記載が通行していました。何かを得る意味合いの「利」と物事の道理や筋道の意味合いの「理」。百花さんなら、どう翻訳されますか?
「権」と「利」の背景に、かつては「理」があったことを、ぜひ百花さんにはお伝えしたいと思います。これからの未来、百花さんが「権」をどう使うのか、より深く考え続けていかれることを願って審査員賞をお贈りします。
華雪
「握」
ばっちゃん へ
かんな より
ばっちゃんが握るのりがしわしわで梅干しが甘いおにぎり。作り方を教わっても同じ味にはならない。手の中にあるのはただのおにぎりじゃなく、ばっちゃんの優しさそのものだよ。私も誰かにそんな「心を握る」ようなおいしいおにぎりを作りたい。
年光 柑奈 さん
東京都・15歳・東京都立八王子桑志高等学校
受賞者コメント
この度は素敵な賞をいただきとても嬉しい気持ちでいっぱいです。この作品には普段言うことが出来ない祖母への感謝や尊敬を込めました。
夏休みなどの長期休みに家に遊びに行くと必ず出してくれるおにぎり。私の文章を読んだ方に、その魅力が少しでも伝わるよう言葉選びを慎重に長い時間をかけて行ったので受賞することが出来て苦労が少し報われたような気がします。
祖母に入賞したことを伝えるととても喜んでくれました。祖母は昔から何かの賞に入ると印刷して家の壁に貼ってくれます。更に壁がいっぱいになるくらい今後も喜ばせたいと思います。
審査員からのコメント
「握」の漢字は、その成り立ちを見ると、手にものを収め掴み持つ意味をあらわすとあります。
「作り方を教わっても同じ味にはならない」と柑奈さんがおっしゃるおばあさまのおにぎり。炊きたての熱いごはんを塩をつけた手に掬って、握る。ただそれだけの中に、それだけではない何かがあるおにぎりという食べ物の不思議を改めて思いました。
おばあさまのおにぎりを深く味わう感性を持つ柑奈さんも、きっともうすでに誰かの「心を握る」ようなおいしいおにぎりをつくられているのかもしれません。柑奈さんの繊細な感性がこれからも様々に発揮されることを願って審査員賞をお贈りします。
華雪
「巡」
桜の木 へ
れい より
近所の大きな桜の木は毎日学校に通う私を見送っていた。六年程前、倒木の危険があるということで伐採され寂しい景色になってしまったが、同時に植えられた新しい桜の苗が今一緒に成長しているであろう地元の子供達に愛される存在になることを信じている。
谷村 玲 さん
東京都・16歳・女子美術大学付属高等学校
受賞者コメント
この度は、私の作品を高校生部門の審査員賞にお選びいただき、誠にありがとうございます。
毎日私を見送ってくれていた桜の木が切られてしまってから長い時間が経ちましたが、今回の作品を通して、ようやく自分の思いを届けることができたように感じます。
「巡」という字には、今の子どもたちや、その次の世代にとっても、これから先ずっと愛される存在であってほしいという願いを込めました。また、新しく植えられた桜の苗が、何年後かに大きく立派な桜の木へと成長し、学生ではなく大人になった私を再び毎日見送ってくれたらという思いも重ねています。さまざまなことが変化していく世の中において、このコンテストを通し、変わらず受け継がれていくものの大切さを改めて知ることができました。
このような貴重な機会を与えてくださった審査員の皆さま、ならびに関係者の皆さまに、心より感謝申し上げます。これからも、今の気持ちを大切にしながら、表現活動を続けていきたいと思います。
審査員からのコメント
作品を読み、玲さんにとって登下校で出会う桜の木への深い思いが伝わってきました。
私が長年開催しているワークショップ『「木」を書いて「森」をつくる』では、参加者の思い出の木を「木」の漢字に重ねて書き、その「木」について話します。そこでも今はなき木の思い出を語る方が少なくありません。
「巡」の漢字は、もともと田畑の溝のかたちから見回る意味をあらわすとされ、そこから一巡りといった意味が派生したといいます。
玲さんの記憶の中で伐られた桜の木はあり続けると思えば、新しく植えられた桜の苗もまた共に成長する子供達だけでなく、様々な人達を見つめ、見つめられながら、ひとりひとりの記憶に深く刻まれ、木の記憶は巡っていくのだろうと思います。
玲さんにとっての桜の木との心あたたまる関わりが、子供達と新しい桜の苗との間にもまた育まれていくことを願い、審査員賞をお贈りします。
華雪
- 芝橋 桜輔 さん(徳島県・15歳・徳島県立阿波高等学校)
- 稲葉 瑞樹 さん(埼玉県・18歳・埼玉県立松山高等学校)
- 川端 勇胤 さん(石川県・17歳・石川県立輪島高等学校)
- 原田 優姫奈 さん(東京都・15歳・東京都立世田谷区総合高等学校)
- 遠藤 愛彩 さん(青森県・17歳・青森県立三本木農業恵拓高等学校)
- 白浜 瑠衣 さん(山口県・17歳・宇部鴻城高等学校)
- 朴 眞亜 さん(愛知県・15歳・愛知朝鮮中高級学校)
- 柳 杏珠 さん(新潟県・17歳・新潟県立十日町総合高等学校)
- 福留 亜美 さん(鹿児島県・18歳・鹿児島情報高等学校)
- キンテラ ジュリア さん(愛知県・16歳・クラーク記念国際高等学校)
※ 受賞者の都道府県、団体名、年齢、職業は応募当時のものです。
※ 基本的には応募作品の原文をそのまま掲載しておりますが、一部修正を加えている箇所がございます。ご了承ください。
受賞者コメント
この度は、このような素晴らしい賞に選んでいただき、誠にありがとうございます。まさか自分の作品が入賞するとは思っておらず、とても驚きました。
私が留学に行き、寂しくなる度に盆栽を買っていた父が、私の帰国後も変わらず盆栽を買い続ける姿に向けて、「私は留学から帰ってきたよ」という気持ちを表現しました。
この春からは韓国の大学へ進学し、再び家を離れることになります。たった二か月の留学でこれほど盆栽が増えたのなら、四年後には家がどうなっているのか、今から帰る日が待ち遠しいです。
審査員からのコメント
「帰」の字は無事に帰還した人が神へ感謝の意を捧げる様子を表します。
そこから、別の場所から本来の場所に戻る、あるいは、落ち着くべきところに落ち着くといった意味が派生したと辞典にはあります。
留学先から、無事、家に帰ってこられた幸歩さん。けれど、幸歩さんの留学中には、お父さまの中では、日常の日々にも家に無事戻られる幸歩さんへの思いも心に浮かばれていたかもしれません。一方で盆栽が、そんなお父さまの帰りを待つものになっていったのかもしれないと想像がふくらみました。
幸歩さんを待つお父さま、お父さまを待つ盆栽。みなさんが無事であるからゆえのユーモアあふれる様子を届けてくださった幸歩さんの作品は、審査員一同心もあたたかく楽しませてくれました。そんな「帰」をめぐる楽しく穏やかな日々に文部科学大臣賞をお贈りします。
華雪