公益財団法人 日本漢字能力検定協会

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京都大学×漢検 研究プロジェクト

ライフサイクルと漢字神経ネットワークの学際研究

研究目的

  • 日本独自の「漢字神経ネットワーク」の解明
  • 漢字能力が脳機能の発達・維持におよぼす効果の科学的検証

 私たち日本語で生活するものにとって「漢字」は欠かせない存在である。しかし、アルファベットや仮名に比べて学習するのに時間がかかり、かつ学習後も忘却してしまいがちな文字である。したがって、漢字の学習とその能力の維持が、日本語生活者の重要な課題である。
 本研究では、「高い漢字能力」を身につけ、さらに維持することの重要性を、学習期(学童期~青年期)と能力維持期(老年期)の2層を対象にした脳の研究によって科学的に証明することを目的とする。

研究体制

京都大学大学院医学研究科 教授 髙橋 良輔(研究長)
教授 村井 俊哉(学習期対象研究担当)
講師 葛谷 聡(能力維持期対象研究担当)
ほか研究協力者
(公財)日本漢字能力検定協会 研究プロジェクトチーム

概要とプロセス

A.能力維持期(老年期)対象研究について

 急速に少子高齢化が進む日本では、健康上の問題がない状態で日常生活を送ることのできる「健康寿命」を長く保てることが重要な課題となっており、認知症予防もその一つである。2012年時点の日本の認知症患者数は約460万人で2025年には700万人を突破するとも言われている。
 認知症予防においては、仮に脳内で病理変化が進行し、認知症を発症したとしても認知機能的には正常なままで寿命を迎えることができる「高認知予備能※1」に注目が集まっている。過去にアメリカの大学が行った「ナン・スタディ※2」では、若い頃から「知的蓄え」がある人は脳内でアルツハイマー病を発病しても認知症の発症リスクを抑えられるのではないかと提唱している。漢字能力も「知的蓄え」のひとつであり、漢字学習は脳の活性化に一定の効果があると言われているが、未だ科学的に解明されていない部分も多く残されている。そこで、本研究では、以下の研究プロセスを通じて、「認知予備能」と漢字能力や漢字学習との関係を明らかにし、現在の高齢者はもちろん、これから高齢に向かうすべての学習者と学習指導者へ貢献することを目指す。

1年目:健常者、軽度認知機能障害の患者、認知症の患者の漢字能力と認知機能の関連性の検討。
2年目:漢字能力が認知予備能を反映するかの検討、漢字能力と認知機能の相関についての検討。
3年目:漢字学習の認知症進行抑制に対する効果の検証。

B.学習期(学童期~青年期)対象研究について

 学習期における漢字習得は、すべての教科学習の基盤であり、言語的思考力を含む知的能力の発達を支えるものである。言語的思考力は、老年期の脳機能に関する強力な予測因子であることが報告され、認知予備能の指標になりうると考えられており、漢字学習と思考力との関係について検討することは生涯発達の観点から重要な課題である。
  児童期から青年期に思考力を十分に育てることが生涯にわたる健全な生活機能の維持につながると考えられ、その時期における漢字学習の量や質は思考力の発達に重大な影響を及ぼしていると考えられる。そこで、本研究では以下の研究プロセスを通じて、学童・青年期の漢字習得と思考力の実態を把握し、漢字学習の意義を科学的に説明することを目指す。

1年目:大学生の漢字能力と思考力、神経認知機能との関連性の検討。
2年目:漢字学習の効果の検証、漢字学習が思考力に及ぼす効果の検証。
3年目:漢字能力と脳神経画像指標との関連性の検討。

  • ※1 「認知予備能」(cognitive reserve)・・・失われた神経細胞の働きを補完する働きのこと。これにより、認知症を発症した場合も認知症症状の程度を抑制できると考えられている。
  • ※2 「ナン・スタディ」・・・米ミネソタ大学の予防医学研究グループが、ノートルダム修道院の協力を得て行っていて、1986年から始まり現在まで調査・分析が継続されている。これまでに認知症に関する様々な知見をもたらしている。

【追記】

 本研究プロジェクトは、2017年~2020年3月までの3年計画としておりましたが、京都大学との合意によりさらに2年間、2022年3月まで延長いたしました。

■追加2年間の研究計画はこちらpdf

研究発表・論文掲載

A.能力維持期(老年期)対象研究について

■第38回日本認知症学会学術集会(2019年11月7日~9日、東京)にてポスター発表
「髄液バイオマーカー診断された軽症アルツハイマー病における漢字書字能力と認知機能の検討」
(発表者:葛谷聡、宮本将和、山本洋介、打田倫子、國立淳子、福原俊一、髙橋良輔ほか)

抄録(PDF)はこちらpdf

■第61回日本神経学会学術大会(2020年8月31日~9月2日、岡山)にて口演発表
 「髄液バイオマーカー診断された軽症アルツハイマー病患者における漢字能力の臨床的意義」
(発表者:葛谷聡、宮本将和、山本洋介、打田倫子、國立淳子、江川斉宏、木下彩栄、福原俊一、髙橋良輔)

抄録(PDF)はこちらpdf

■第39回日本認知症学会学術集会(2020年11月26日~28日、名古屋)にてポスター発表
「髄液バイオマーカーを用いた軽症アルツハイマー病における漢字想起障害の臨床的意義」
(発表者:葛谷聡、宮本将和、山本洋介、打田倫子、國立淳子、江川斉宏、木下彩栄、福原俊一、髙橋良輔)

抄録(PDF)はこちらpdf


B.学習期(学童期~青年期)対象研究について

■第18回 欧州児童青年精神医学 国際学会2019(2019年6月30日~7月2日)にて研究発表
18th International Congress of European Society for Child and Adolescent Psychiatry ESCAP 2019
大塚貞男,村井俊哉  The factor structures of Japanese kanji abilities, and age and cohort effects on them (漢字能力の因子構造:年齢とコホートが及ぼす影響)

論文(英文)はこちらpdf

論文(和訳)はこちらpdf

■第60回日本児童青年精神医学会総会(2019年12月5日~7日)にて研究発表
大塚貞男,村井俊哉 漢字習得の3側面と認知機能および言語性能力との予測関係の特定 

論文(日本語)はこちらpdf

■英国科学誌サイエンティフィック・リポーツに論文掲載(2020年2月20日)
大塚貞男,村井俊哉  The multidimensionality of Japanese kanji abilities(日本人の漢字能力の多面性)

論文(英文)はこちら

■英国科学誌サイエンティフィック・リポーツに論文掲載(2021年1月26日)
大塚貞男,村井俊哉  Cognitive underpinnings of multidimensional Japanese literacy and its impact on higher-level language skills(多面的日本語読み書き能力の認知基盤と高度な言語スキルに及ぼす影響)

論文(英文)はこちら

本論文に関する京都大学からの発表(2021.1.27)「漢字の手書き習得が高度な言語能力の発達に影響を与えることを発見 -読み書き習得の生涯軌道に関するフレームワークの提唱- 」はこちら

論文公開に関する当協会の発表(2021.2.12)はこちらpdf

■日本心理学会第86回大会(2022年9月8日~11日、日本大学)にてポスター発表
大塚貞男,村井俊哉 漢字能力の多面性とその現代的特徴

ポスター(PDF)はこちらpdf

■国際学術誌 Reading and Writing に論文掲載(2023年4月24日)
大塚貞男,村井俊哉  The unique contribution of handwriting accuracy to literacy skills in Japanese adolescents. (日本の中高生の読み書きスキルへの正確な手書き習得による独自の貢献)

論文(英文)はこちら

本論文に関する京都大学からの発表(2023.4.27) 「漢字の手書きは文章力の発達に独自の貢献をする―読み書き発達の二重経路モデルの提唱―」はこちら

論文公開に関する当協会の発表(2023.05.17)はこちらpdf

■日本心理学会第87回大会(2023年9月15日~17日、神戸国際会議場・神戸国際展示場)にてポスター発表
大塚貞男,村井俊哉 漢字習得の3側面が高度な言語能力の発達に及ぼす影響

ポスター(PDF)はこちらpdf

研究成果

《公開シンポジウム》
 ■テーマ: 人生100年時代、なぜ今、漢字の手書きが重要なのか?
       ~基礎学力の形成から認知症予防まで~
 ■日 時: 2022年12月18日(日)14:00~16:30
 ■場 所: 京都大学 百周年時計台記念館 百周年記念ホール およびオンライン(Zoom使用))
 ■対 象: 一般(どなたでもご参加いただけます)
 ■定 員: 京都大学 500名/オンライン 定員なし
 ■参加費: 無料
 ■申込方法:申込受付は終了しました
 ■共 催: 京都大学医学研究科(臨床神経学・精神医学)、公益財団法人 日本漢字能力検定協会

公開シンポジウムの抄録はこちら

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