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中学校

当たり前のことを当たり前にできる生徒を育む

学校長 淡路 雅夫 先生

関東 / 神奈川

[私立] 浅野中学校・高等学校

学校長 淡路 雅夫 先生

1.真の愛情が社会に貢献できる人材を育む

 本校は、創立者である浅野總一郎の「社会にとって大事なのは人である」という信念から1920(大正9)年に設立されました。「九転十起」、「愛と和」という校訓のもと教育に取り組み、現在では、その教育内容が高く評価されています。校訓のひとつである「九転十起」とは、創立者・浅野總一郎の半生の苦労から生まれたものです。「七転び八起き」ならぬ、それ以上の挫折を乗り越える強さや、思うように行かないときにこそ頑張る気持ち。これを生徒一人ひとりの心の中で育てたいという思いが込められています。自分の思う通りにならないのが世の中というものですから、それに耐えて自分を磨き続け、社会に貢献できるような人材を輩出したいと考えています。
 また、「愛と和」は初代校長水崎基一先生の理念から生まれました。教育の原点は「愛」です。いつの時代も子どもを育てるにはエネルギーが必要であり、親でも教師でもいかに愛情をもって接するかが大切です。しかし、現代は、ニコニコと子どもの言うことをただ聞くだけで、子どもを甘やかしすぎではないかと感じています。本当の愛情が何かを認識しなければなりません。

2.勉強する理由と「基礎学力」

 近年のニート問題に象徴されるように、現代は他者に向けての精神に欠けている人が多いように感じます。自分のお金、自分の成功、自分の名誉、自分のリスク軽減と、全て自己中心の判断基準となってはいないでしょうか。
 では、何のために勉強するのか?私は、生徒にその問いを問われれば、「自分のため」ではなく「社会に貢献するため」と答えます。人は社会に貢献することで社会や他人から感謝され、満足感を得ることができます。この満足感から「やりがい」や「生きがい」が生まれるのであり、社会に貢献するための力を身につける前から「やりがい」があるわけではないのです。大切なのは、各教科を履修し、そこで得た知識を使うことによって社会に貢献すること。「社会でどうやって生きるか」ではなく、「生かしてもらう」というように考えなければなりません。自分が社会で生かされるために、自分で自分を磨き続けることが必要なのです。
 教育は一種のサービスだといえますが、市場におけるサービスとは違います。市場におけるサービスとは結果としてお金を儲ける(利益を得る)ことが目的であり、結果が重視されます。しかし、教育にとって大事なのは結果ではなく過程(プロセス)です。教育の結果として生徒が満足するのは大学に合格することでも就職することでもなく、社会に出て貢献し、「あなたがいてくれて良かった」「あなたでなきゃいけない」と周囲に感謝されたとき、つまり社会の存在として認められ、社会や周囲から「ありがとう」と言われたときにこそ結果が出たと言えるのです。
 中学校・高校で培われる「基礎学力」は大学で学ぶためのベースであり、かつ社会に貢献し活躍するためのベースです。そして、「基礎学力」とは「社会で自分を生かしてもらうための力」です。一般的に「基礎学力」を英語や数学といった教科に集約してしまう傾向がありますが、そうではありません。そこには、体育や芸術、「自主性・積極性」や「社会生活を送る上で必要なマナー」、さらに、「情報や知識を使いこなすための力」も含まれます。現代ではITツールの発達などにより、高度な専門知識や情報(英語・数学・理科・社会などで学ぶことも含む)を、誰もが簡単に手に入れることができるようになりました。しかし、それらをただ持っている(知っている)だけでは意味がありません。社会で生かされるために活用できて初めて、その知識や情報に意味が生まれるのです。知識や情報は、使いこなさなければ意味がない。この使いこなす力を私は「生活力」と言っています。この「生活力」も「基礎学力」の重要な一要素と考えています。

3.「基礎学力」を身につけさせるために

<生活力>
 本校は、難関大学に多くの生徒を進学させればいいというスタンスの学校ではありません。保護者にはこのことを分かりやすく「難関大学行きの特急電車ではなく、『各駅停車』の学校です」と伝えています。難関大学へ合格させることだけを目的に特急に乗車すれば、途中下車をしてゆっくり景色を見ることもなく、また人と触れ合うことも少ないでしょう。これでは知識や情報を使う力としての「生活力」は育まれません。
 「生活力」を育むには、様々な経験や体験をして多くのことに気づき、考え、実践することが必要です。といっても経験や体験は特別なものでなくても構いません。例えば、思うように成績が上がらない生徒がいれば、テストの点数を気にするのではなく、学習プロセス(過程)を見直しそれをもとに自分なりの勉強方法を生み出すように指導しています。やったこと、できたことよりも、なぜそうなったかを考えさせることを重視しているのです。このように、普段の経験や体験によって培われた力が、その生徒の「生活力」につながると考えています。

<自主性・積極性>
 先程、「基礎学力」の要素のひとつとして「自主性・積極性」をあげましたが、自主性・積極性は持って生まれた先天的なものではなく、訓練によって育まれるものです。ですから、教育者は「生徒に自主性・積極性がない」と簡単に言ってはいけません。何かを成し遂げた達成感や喜びといった成功体験の積み重ねが、子どもの自信を育みます。教師・指導者が小さな達成感から徐々に大きな達成感を感じられるように導く過程で、少しずつ生徒の内に達成感が積み重ねられ、それが自信となり、自主性・積極性が育まれていくのです。
 本校は「漢検」に全員で取り組んでいますが、このような取り組みも、成功体験を積み重ねるという点で、生徒の自主性・積極性を育むひとつのきっかけとなっています。

<マナー>
 学校では、「マナー」や「ルール」など、生徒の人生において(長い目で見て)重要なことをしっかりと教えなければなりません。学力は、社会でのルールや人と接するときのマナーなどを守るといったことができたうえで活かされるべきものです。ルールやマナーは多くの体験や経験で育まれます。そのため、本校ではクラブ活動や学校行事も重要視しています。例えば、クラブ活動のなかでは、自分の思うようにいくことは多くありません。しかし、こういう経験を通して、生徒たちは人間関係や友人間でも必要なマナーを学んでいくのです。そのような環境の中で耐えて、頑張り続けることで、自分中心ではなく「チームのために何ができるか」という考えを持つようになります。これが本校の考える文武両道です。

4.注意する生徒指導ではなく、育てる生徒指導を

 本校に見学に来られた入学希望者や保護者、教育関係者などから、「他校にない特徴的な取り組みがあれば教えて欲しい」とご質問をいただくことがしばしばあります。しかし、これまで述べてきましたように、本校は特殊なことは何もしていません。
 生徒たちが、当たり前のことを当たり前にできるようになるには、「なぜその必要があるのか」「なぜしてはいけないのか」などに生徒が自ら気づくようにならなければなりません。そのため、本校では、注意する生徒指導ではなく、育てる生徒指導を心掛けています。なぜなら、注意して変わる子は注意しなくても変われるものだからです。同様に、「勉強をやれ」といってやれる子は、そのように言われなくても自分でその必要性に気づきできるようになります。教師は、「勉強をやれ」と言わないで自然と生徒が勉強をするようになる方法を考えなければなりません。言い換えれば、生徒に「やらなきゃダメだな」と気づかせるようにしなければならないのです。そのために、教師は生徒にはたらきかけ、仕掛けをつくる(刺激を与える)ことが重要と考えています。だから本校では、一人ひとりに対してONE TO ONEの丁寧な指導を行っています。本校の先生方はまさに「愛ある教育」をしているのです。「愛とは知ること」であり「愛とは見ること」でもあります。生徒一人ひとりにあった適正な目標(ハードル)を定めれば、生徒はそれを乗り越えようと努力し、乗り越える過程で考える力がつき、各教科の学力も向上します。これがいわば不易の教育なのです。
 本校では、学校における様々な取り組みや、生徒が行うべきことの意義を、学校説明会などで時間を取ってきちんとお伝えし、生徒はもちろん、保護者や教員とも意識的に共有するようにしています。指導の意義をしっかりと伝えることは、生徒の目的意識を育みます。「生活力」、「自主性・積極性」、「マナー」等の「基礎学力」の体得は、このような当たり前に行っていることの意義を浸透させるといった、地味な活動から始まるのです。


※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。


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