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日本語コミュニケーションの前提となる常用漢字の活用能力

全関東地区中学校国語研究協議会会長 新宿区立四谷中学校校長 吉田 和夫 先生

関東 / 東京

[公立] 新宿区立四谷中学校

全関東地区中学校国語研究協議会会長 新宿区立四谷中学校校長 吉田 和夫 先生

1.子供達の環境変化に合わせた指導が必要

 従来の漢字指導の順序は、「読めて、意味が分かる。書けて、使える。」という流れが一般的でした。ところが、IT機器の発達などの急激な環境変化を受けて、日本人の言語の使用環境が変わってきています。ワープロソフトや携帯電話を使えば、どんな言葉でも瞬時に漢字に変換してくれます。即ち、個人にとって、「書けなくても使える漢字」や「読めなくても意味が分かる漢字」などが出現し始めているのです。そういう意味で、漢字習熟に向けた一連のプロセスは、非常に柔軟になってきていると言えるでしょう。
 子供達を取り巻く環境の変化に合わせて、基礎基本を定着させる方法についても工夫を加えていく必要があると考えます。少なくとも、現代の子供達は、自ら活字に手をのばしたり、自然と活字に触れたりするような環境下にはありません。子供の注意を引くものが多くあり、読書や漢字などに触れる機会は減少しつつあると考えます。子供達を多くの言葉や漢字に触れさせる機会を、周囲の大人達が意図的につくっていく必要性があると感じます。子ども達に様々な「ひっかかり」を与えて興味を喚起し、数多くの言葉に「アクセス」できる状態にしてあげることが大切なのです。

2.社会で必要な能力を育む「言語活動」

 実は、社会において、「絶対解」はあまり存在せず、多くの人が理解・共感できる「納得解」が多いのではないでしょうか。今後さらにグローバル社会が進み、価値観が多様になればなるほど、混沌とした状況になってきます。社会人に必要なのは「混沌の中から価値を紡ぎだす能力」であり、そのためにも「言語によるコミュニケーション能力」を備えていることが大切になります。言語とは、即ち「対象の捉え方」そのものです。言語に表されていなければ、実体や概念として存在していないのと同じです。人は自らが使用する言語から、概念や思考の枠組み、世界を認識する仕方を与えられていると言えます。従って、極端に言えば、日本人の価値観や考え方は、日本語によって規定されていると言っても過言ではありません。日本社会では古来より、あまり自己主張をしないことを是とする価値観が育まれてきました。「謙譲の美徳」「沈黙は金」「出る杭は打たれる」「唇寒し秋の風」などの日本語に、それは表れています。ですが、現代の国際社会で求められているのは、物事に対する自分の意見とその論拠をはっきり示すこと、即ち語ることによって分かりあうという、英語的な価値観や考え方なのです。
 日本語は高度に洗練された、含蓄のある豊かで素晴らしい言語ですが、世界的な視点から見れば「イントラネット言語」です。現代における「インターネット言語」は、やはり英語です。英語ができることにより得られるコミュニケーション量は軽く10倍を超えるでしょう。日本語圏に住む子供達には、英語圏の人々とも潤滑にコミュニケートできるように、英語的価値観や考え方についての訓練をする機会や場が必要なのです。これは必ずしも英語の学習ということではありません。世界の人々と伍して対話できるようになるための枠組みを、日本の教育の中のどこかに創らなくてはいけません。
 その枠組みこそが「言語活動」であると考えます。唯一の正解に導く授業ではなく、教室内に混沌を起こし、そこから何かが生まれるような授業を行う必要があります。そもそも、言葉から具象化されるものは人それぞれであり、ひとつの言葉が完全に共通理解されることはないという事実を知らなくてはなりません。コミュニケーションとは、言葉という不完全な道具を用いて、少しでも共通理解を深めようとする行為に他なりません。言葉を大切にする態度を育み、言葉を正確に運用する訓練を行うことこそ、これからの国語科の役割なのではないでしょうか。言語活動の充実というのはそういうことです。

3.グローバル社会だからこそ日本語を大切にして欲しい

 一見、先述とは矛盾するようですが、グローバル社会だからこそ、日本語的価値観や考え方も大切にして欲しいと思います。グローバル化と聞くと、全世界が標準化・均一化されていくイメージもありますが、そのような温もりのない無機質な世界がグローバル社会ではありません。それぞれがそれぞれの個性や強みを発揮しつつも、全体として調和が取れている社会が新しいグローバル社会であると言えます。日本人は自ら生きる社会である日本の、日本人としての価値観や考え方をしっかりと受け継ぎ、それらを強みとして発揮していくことが期待されます。
 日本人の強みとは何でしょうか。繰り返しますが、日本人の価値観や考え方は、日本語にこそ集約されています。控えめな自己主張は、「思いやり」「奥ゆかしさ」「多様性を受け入れる柔軟性」とも言い換えることができます。価値観が多様化している現代社会でこそ発揮が期待される、日本人ならではの強みと言えるのではないでしょうか。日本人の母語は日本語です。母語を失うことは、概念や思考や文化の枠組みを他国に支配されることに他なりません。日本人は日本語を大切にしながら、他の言語、例えば英語を発信できる能力を兼ね備える必要があります。目指すべきは、日本語か英語かという、あれかこれかの排中説ではなく、あれもこれもという発想であり、むしろ、「バイリンガル」ではなく「デュアルランゲージ」とも言える対応力なのです。
 日本人の強みのひとつである「多様性を受け入れる柔軟性」は、日本語自体にも表れています。日本語は言語学的には「膠着語」に分類され、接頭辞・接尾辞を用いて語順を問わず自由に繋げることができるという特性をもっています。また、外来語を自然に受け入れ、和製英語といったものまで創りだしています。さらに、漢字・ひらがな・カタカナ・アルファベット・算用数字・漢数字・ギリシャ数字など、数多の文字を駆使して表記され、しかもほとんど全ての日本人がこれを違和感なく読み書きしています。これほど柔軟性に富んだ言語は、世界を見渡しても唯一無二と言えるでしょう。これは日本の食文化と同様で、カレーやラーメンなど、海外発祥の文化を日常生活の中に違和感なく溶け込ませ、日本独自の進化を遂げさせています。この柔軟性は、食文化として非常に珍しいものですが、日本語という言語もそのような性質をもっています。言うまでもないことですが、中国発祥の文字を日本の日常言語に持ち込み、独自の進化を遂げたのが「漢字」です。その意味で、漢字は今後も後世に長く受け継がれるべき、日本の貴重な文化遺産なのです。現在、漢字文化の原型を留めているのは日本語だけではないかと思うのですが、どうでしょうか。

4.日本語における漢字の重要性

 また、漢字が日本語の中核を成していることは間違いありません。日本人は、音声による対話の中でも同音異義語を多用しますが、それは漢字の理解を前提としているからこそ可能なのです。日本語の音から意味を形成するときは、無意識のうちに漢字を媒介とします。自分の発する言葉を相手が正しく漢字変換してくれるという前提で対話をしているようなものです。漢字が日本語(国語)の全てとは言いませんが、漢字なくして日本語(国語)でのコミュニケーションは不可能です。たかが漢字、されど漢字。漢字ができる人は、日本語ができる人なのだと言っても過言ではありません。
 日本語コミュニケーション能力の前提となる、漢字の活用能力。その習得基準として定められているのが今回改訂された常用漢字です。常用漢字の習得は、全ての日本語使用者が一度は踏まえてほしい基準です。覚えた漢字を忘れてしまうこともあるでしょうが、一度覚えた漢字はまたすぐに書けるようになります。全ての子供達が、社会に出るまでに、少なくとも常用漢字に「アクセス」できている必要があります。そのため小学校段階から、漢字に振り仮名(ルビ)をふって読ませることや、漢字検定に挑戦させることなど、多様なツールを提供することが必要でしょう。それはつまり、漢字への「アクセス」を促進する「ひっかかり」をつくるということなのです。
 漢字への「アクセス」がうまくいかないと、子供達は古典も文学も読まなくなります。歴史の評価を経てきた作品には、培われてきた人類の英知が詰まっています。それらの珠玉の言葉たちを伝承していくことが、情緒や感性を育むことに繋がります。その意味では、言葉は日本社会の言語文化として、子供達の生活や人生のソーシャルスキルやライフマネジメントとして機能することになるのです。知的な人間、教養のある人間、基礎的な教科学習を修了した人間の常識として、常に用いて欲しいのが常用漢字なのです。

※ヌエ(鵺)・・・日本の伝承に出てくる妖怪。猿の頭、虎の四肢、狸の胴体、蛇の尾を持つと言われる。


※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。


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