公益財団法人 日本漢字能力検定協会

基礎学力を考える 企業トップインタビュー

ワタミ株式会社

渡邉 美樹 氏

代表取締役社長・CEO 渡邉 美樹 氏

1959年横浜生まれ。明治大学商学部卒業。1984年創業。1992年に居食屋「和民」を開発。2000年東証一部上場。2006年持ち株会社に組織を改め、外食・介護・農業・環境などの事業を展開中。個人活動では、郁文館夢学園理事長、日本経団連理事、盈進会病院理事長、NPO法人スクール・エイド・ジャパン理事長、神奈川県教育委員など。
渡邉美樹.net → 別ウィンドウhttp://www.watanabemiki.net/

1.「基礎学力」の定義と「社会人に必要な能力」

 通常、「社会人の基礎能力低下の問題」と「学生の学力低下の問題」を分けて議論されることが多いようですが、私はこれらの問題の軸は同一と考えています。学校は小さな一つの社会です。ですから、社会で必要な能力は既に学校生活をおくるうえにおいても必要と言えるのです。一般的に社会人として必要といわれる『コミュニケーション能力』や『リーダシップ能力』などは、結局、学校においても必要な力です。このような観点から今回のテーマである『基礎学力』を考えますと、『基礎学力』とは、『観察力』・『分析力』・『判断力』になると思います。これらは、学校で各教科を学習する上でも、社会に出てからビジネスをする上でも必要不可欠の力だからです。

 さらに、企業で働く上で必要な力を考えますと、もっとも汎用的な能力として『問題発見能力』と『問題解決能力』が第一に挙げられます。『問題発見能力』とは、「あるべき姿(理想像)と現状が明確になっていて、その『差』を認識でき、何が問題であるかを特定することができる力」です。また、『問題解決能力』とは、「特定した問題の解決方法を論理的に組み立て、それを他人(仲間)に伝えてチームとしてその問題解決にあたることのできる力」と言えます。そして、問題解決のプロセスにおいては、理想と現状の『差』をどれだけ多面的に分析することができるかも極めて重要となります。ある一面だけを見て、設計図(解決プロセス)を描いても大半が失敗に終わってしまうからです。

 社会人にとっては、「学習→実践」を繰り返すことも重要です。学習して多くのフレームを知識として獲得しておくと、何らかの失敗をして痛い思いをした時に、「あっ、あの時学習したのはこういうことだったのか」と身をもって知ることができます。また逆に、失敗体験を他の例に照らしてシミュレーションし、汎用知化することも必要です。学習して実践すること、失敗した時に汎用知化すること、これを繰り返すと、実際に自分自身が怪我をする回数が減ります。名経営者や先人の知恵が詰まった本を読む、そしてそれを模してやってみる。たとえ失敗したとしても、それを汎用知化すれば一回の怪我ですみ、逆に多くのことを学ぶことができるのです。仮に、学習をせずに自分の経験のみを頼りに成長を図ろうとすると、ゼロから色々経験し失敗と成功を繰り返しながら積み上げていくしかありません。それでは、怪我をする回数が増えてしまいます。会社経営でそれをやってしまえば、間違いなく倒産してしまうでしょう。学習するというのは、嫌なことではありません。むしろ、自分が得するため、自分が人生で怪我をしないために学習すると考えると良いと思います。

2.現在の若年層にかけているもの(今の社会に足りないもの)

 近年、コミュニケーション能力など「若年層の社会人としての基礎能力の低下」が問題になっていますが、先述した『問題発見能力』・『問題解決能力』も例外ではありません。どちらの能力も同時に低下してきていると思います。現在の若年層には、あるべき姿(理想像)がイメージできない単なる現状肯定派が多いようです。また、仮に問題意識があったとしても、現実を変えるための一歩を踏み出す力(行動力)が足りない人も多いように感じます。このようになってしまった最大の原因は、彼らには自分に対しての『欲』はあるが、自分以外に対しての『欲』がないことです。多くの若者が、「自分さえ良ければ...」という観点で思考し、それで満足してしまっています。それ故に、内発的エネルギーがなく、理想像を創りだすことができなくなり、仮に理想像があったとしてもそこに近づくための一歩を踏み出さなくなってしまっているのでしょう。非常に憂えるべき事です。

3.読書による『言葉』の研鑚と『モデル』の獲得の勧め

渡邉 美樹 氏 『観察』→『分析』→『判断』の3つのプロセスを論理的に思考し、進めるためには『言葉』が必要です。また、広義の意味での学習とは、本を読むこと、もしくは人の話を聞くことと言えると思いますが、本を読む・人の話を聞くのにも、やはり『言葉』が不可欠です。さらに、問題発見・解決のプロセスにおいては、「論理的に思考する」、「他人に自分の思考を伝える」ことは欠かせませんが、ここでも『言葉』を駆使します。このように『言葉』はすべての知的活動の根幹に位置します。『言葉』の力は大人になってからも磨きつづけていかなければいけない非常に大事な能力なのです。『言葉』の力を磨く手段として、読書は非常に有効です。私もたくさんの良書との出合いを通して、多くの『言葉』を蓄え、磨いてきました。

 さらに読書は、時空を超えた擬似体験ができる唯一の手段でもあります。良書を数多く読むことにより、様々な世界観・人生観のモデルを数多く持つことができます。私は、中学時代は聖書に没頭し、高校・大学時代は歴史(特に日本史)小説と経済小説をよく読みました。大学卒業から現在にいたっては、専ら『論語』などを多く読んでいます。今まで出合った多くの良書の中でもとりわけ、安岡正篤氏の書籍は全て精読し、非常に多くのことを学びました。現在の私の精神の根本にあるベースは、中学時代に読んだ聖書だと思います。また、高校以降に読んだ多くの書籍を通して、登場人物と同じ経験(時には成功、時には大怪我)をしたからこそ今の私があるのだと思っています。

4.『小・中・高生』と『大学生・社会人』に向けてのメッセージ

 ●『小・中・高生』に向けて
 大学進学までを一つの区切りとして目標設定をする中高生が多いように感じますが、現実には学校、社会に区切りはありません。ですから、小中高生の皆さんには、大学進学を目標とせず大学の向こう側を目標として欲しいと思います。どういう日本人・社会人・大人になりたいのかという視点で『夢』を持って下さい。『夢』の実現にはどうしても『知識』が必要となります。学習して『知識』を得るということは、先人の経験を学び、自ら怪我をすることなくそれらを身につけることができるということです。『知識』とは、「他の人が自分のために怪我をしてくれた結果」と言い換えることができると思います。学習する理由は、自分が得するため、人生で自分が怪我をしないためなのです。


 ●『大学生・社会人』に向けて
 学習は、社会人にとって非常に重要です。その必要性はむしろ学生時代よりも高いかもしれません。学校は、大人によって与えられた恵まれた環境において基礎的な知識の体得や能力の向上を図る場ですが、社会では自ら求めなければ知識が受動的に与えられることはまずありません。つまり、社会では自ら学びながら必要な能力を高めていかなければならないのです。(少なくとも、学校では漢字を教わるが、社会では教わりません。)社会に出たばかりの方や、その前段階にいる大学生には、「死ぬまで学習しなさい。」と助言したいと思います。『夢』をかなえるため、社会人こそ成長し続けることが必要です。それには学ぶしかありません。『人生一生学習』です。


※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。

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