公益財団法人 日本漢字能力検定協会

基礎学力を考える 企業トップインタビュー

株式会社クボタ

幡掛 大輔 氏

代表取締役社長 幡掛 大輔 氏

1941年生まれ。1964年横浜市立大学商学部卒業後、久保田鉄工株式会社(1990年株式会社クボタに社名変更)に入社。機械企画部長、枚方製造所長、経営管理部長等を歴任。1999年取締役に就任し、企業行動監査部担当、関連事業推進部・情報化推進部副担当、経営企画部長等を務める。2001年常務取締役に就任し、コンプライアンス本部長、PV事業推進部長等を務めた後、2003年より現職。

1.「基礎学力」とは 学ぼうと思い立った時に学ぶことが出来るための「土台となる習慣」

 私は代々、福岡県北九州市で10数社の神社を守ってきた神職の長男として生まれました。子供の頃から家業を継ぐことの大切さは理解していましたが、一方で他の道にも進んでみたいという強い思いもありました。そういったプレッシャーに耐えかね、厳しい両親や窮屈な生活からなんとか抜け出したいと、いつも思っていたものです。その反発からか、小中高から大学時代まで、本気で勉強をしたという記憶はありません。学業において落ちこぼれだった私が、今このような立場にあることを、自分でも驚いています。
 私にとって大きな転機となったのは、当社に入社したばかりの頃でした。共に入社した同僚や諸先輩方は、非常に頭が良くて優秀であり、しかも気概に溢れ、使命感に燃えていました。そんな彼らを見て、「私ももっと勉強しておけば良かった」と痛感したことを、今でも鮮明に覚えています。そして、「学生時代の遅れを、ビジネスマンの20年でなんとか取り戻してやろう」と決意し、その後は勉学に心がけました。

 人は誰しも、人生のあるタイミングで「自分は勉強が足りなかった。学ぼう、勉強しよう。」と思い立つ瞬間があるものです。こういった「学ぼう、勉強しよう」と本気で思った時に、すぐに学ぶことが出来るための「土台となる習慣」。それこそが「基礎学力」であると、私は考えます。

2.4つの「土台となる習慣」

 私が考える「基礎学力」即ち「土台となる習慣」とは、主に以下の4つだと考えます。

(1)日常的・継続的に本を読む習慣
 若い頃は反発していた両親に、今になって非常に感謝しているのは、日常的・継続的に読書する習慣を身につけてくれていたことです。私の両親も読書に親しんでおり、その姿をいつも見ていました。また、常に本を読むように言われてもいました。大学生であれ、社会人であれ、新しいことを学ぶ時は必ず書物を紐解きます。いざ「学ぼう」と思い立った時、本を読むこと自体が苦痛であったら、大きな障害になるに違いありません。
 ある一定の年齢になると、本を読む習慣を持ち続けてきた人とそうでない人とでは、風貌や醸し出す雰囲気がどこかしら違ってくるとも感じています。読書による蓄積は、短期的な変化は望めないかもしれませんが、長期的には大きな変化をもたらすものなのです。
 ちなみに私自身の読書遍歴を振り返ってみると、食べ物の好みの変化と不思議と符合するものを感じます。10歳代から20歳代は、西洋料理を好みました。その頃に読んでいたのは、主に西洋文学でした。30歳代から40歳代中頃までは、中華料理を好み、中国ものを良く読みました。40歳代半ば以降は日本料理が体に合うようになり、読書も日本の古典に傾斜しています。
 今でも常時3冊から4冊の本を平行して読んでいます。木曜の夕方は一切の予定を入れず、定期購読本の受け取りも兼ねて、地元の書店を訪ねることにしています。


(2)長編を読み切る習慣
 読書を継続するだけではなく、壮大な長編大作を全て読み切るという習慣も、非常に大切なものだと感じています。分厚い書籍の全集を目の前にすると、思わず手にすることを躊躇してしまう人も多いでしょう。ですが、敢えてこれを手に取ることで、辛いこともやり続ける「忍耐力」や、最後までやり切る「継続力」が身につくのです。仕事や学問で新たなことを学ぼうとする場合、「忍耐力」や「継続力」は絶対に必要です。また、長編を読み続けていく過程においては、そこに描かれた世界観や壮大な絵巻を頭の中に描き出していく必要があります。これは非常に脳が鍛えられると同時に、大局的な構想力といったものも培われます。
 私自身は、『水滸伝』や、中里介山著『大菩薩峠』、トルストイ著『戦争と平和』などの長編大作を一気に読み切ることが好きでした。最近でも、ドストエフスキー著『カラマーゾフの兄弟』を読み返したばかりです。それらの長編を買い込む際に、途中の1巻が売り切れていた時などは、どうしても落ち着かず、あらゆる手を尽くして入手しようとしたものでした。


(3)傾聴する習慣
 「無知の知」とは、古代ギリシャの哲学者ソクラテスの有名な言葉です。「自分自身が無知であることを知っている人間は、自分自身が無知であることを知らない人間より賢い。真の知への探求は、まず自分が無知であることを知ることから始まる。」という意味です。この言葉の通り、自分の知見や知識を大したものと思い込んでいる人は、成長も成功もできません。新たな知見や知識を学ぶ必要性を感じていないわけですから、学習や勉強以前の問題です。永い年月をかけて人類が紡いできた歴史、それに伴い編み出された知見や知識の膨大さを考える時、人ひとりの知見や知識などほんの一部分に過ぎないことは明らかです。「自分の知っていることや経験していることが全て」などと考えるのは、思い上がりというものでしょう。まずは人の話を傾聴すること。そこから学びは始まるのです。
 そして、素直に謙虚に聴けば、大抵の人は丁寧に教えてくれるものです。製造業では、何といっても技術力と営業力が事業の両輪です。私自身の仕事の経歴は管理・企画部門が中心であり、決して技術や営業に精通しているわけではありません。しかしながら、社内外の様々な人々の声に、素直に謙虚に耳を傾けていれば、多くの知見や知識を吸収し、経営の舵取りに活かしていくことができるのです。
 私は毎朝7時には出社し、8時までの1時間は、その日のスケジュールチェックと従業員からのメールチェックにあてることにしています。管理部門や製造現場まで、実に様々な立場の従業員からメールが届きますが、私はそれら全てを熟読し、真摯に受け止め、対応するように心がけています。


(4)一流の人物と会う習慣
 昔の人は、「使いが出来て一人前」と良く言ったものです。子供の頃や若い時に、一流の人物と数多く出会うことが大切だからです。一流の人物のもとに使いに行くと、その方の大局観や美意識など、様々な面で薫陶を受けることが多々あります。また、このような機会を通じて度胸も付きますので、相手がどんな大人物であっても会うことが怖くなくなります。これも一種の習慣と言えるでしょう。
 私自身も父の使いで、当代きっての思想家・国学者・哲学者の先生方のところへ使いに行かされたものでした。その時は大層緊張したものでしたが、後々の人生においてその薫陶のありがたさを痛感する場面も多々ありました。

3.当社が行っている基礎研修

幡掛 大輔 氏 お陰様で、当社の新入社員は、かなり優秀な方々に入社して頂いていると感謝しています。ですが、それでもひと昔前に比べると、「基礎学力」の低下を感じているというのが本音です。これは、個々人の問題というよりは、社会全体で若年層の「基礎学力」が低下していることの表れだと思われます。
 当社では社員教育には昔から積極的に取り組んできました。過去には、事務系・技術系の社員全員に、「そろばん」と「ペン習字」の講習を義務付けていた時代もありました。昨今では、事務系の新入社員には財務諸表の読み方などの訓練を、技術系の新入社員には、ドラフターという製図機械を使った、手書きによる製図の訓練を行っています。パソコンソフトを使用すればもっと手軽に製図できるのですが、実際に手で書くという基礎訓練を通過せずにソフトに頼ってしまうと、製図に関する基礎が体得できません。

 新入社員の頭が柔らかいうちに、手と頭を使って訓練を行うことで、基礎基本を生身で体得させたいという考えです。

4.継続は力なり

 例えどんなに小さなことであっても、それを必ず毎日続けていれば、やがて大きな力となります。継続し続けた者とそうでない者の差異は、気が付けば大きく広がっており、決して取り戻すことはできないでしょう。能力を身につけるための近道はなく、日々の努力の積み重ね以外にはありえません。
 当社の創業事業でもあるインフラ整備事業も、「継続力」こそが問われる領域です。社会の基盤を創るような大きなプロジェクトは、一朝一夕に完成するものではありません。例えば、全国に張り巡らされている水道管の約6割は当社の製品ですが、水道インフラを現在の状態に整備するまでには、既に100年以上の年月を費やしています。そして、その一つひとつの仕事で手を抜かずに工夫を凝らし続けてきた結果が、世界最高水準の安全・安心な水の供給、漏水率の低さなどを実現しています。

 前述した「基礎学力」である4つの「土台となる習慣」も、日々の行動の継続からしか体得できません。全ての子供達や若者が、この4つの習慣を体得して欲しいと願っています。それが、その人の人生を支える大きな宝物となるのですから。


※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。

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