公益財団法人 日本漢字能力検定協会

基礎学力を考える 企業トップインタビュー

エルピーダメモリ株式会社

坂本 幸雄 氏

代表取締役社長兼CEO 坂本 幸雄 氏

1947年生まれ。1970年日本体育大学体育学部卒業後、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社入社。ワールドワイド製造・プロセス・パッケージ開発本部長、取締役副社長、等を歴任。1997年株式会社神戸製鋼所入社。電子・情報事業部 半導体本部本部長、電子・情報カンパニー 執行社長補佐、等を歴任。2000年 日本ファウンドリー株式会社(現ユー・エム・シー・ジャパン株式会社)代表取締役社長。2002年エルピーダメモリ株式会社代表取締役社長、2003年より現職。2008年4月現在、秋田エルピーダメモリ株式会社取締役も兼務。

1.社会で求められる「基礎学力」とは

 「社会で求められる基礎学力とは何ですか」と訊かれれば、私は「まず国語・数学・英語」と答えるでしょう。この3つが基本中の基本であることに異論は少ないと思います。そして、「次に理科・社会」と答えます。これらの教科で学ぶ知識ももちろん重要ですが、もっと肝心なのはそれらの知識を現実社会で有効に使える力、即ち「体系的・構造的な思考力」を身につけることです。
 それに加えて、社会で活躍するためにさらに身につけて欲しい能力があります。それは、「走りながら考える力」「チームワーク力」「結果検証をする力」「自分の強みと弱みを冷静に見極め、自分のポジションを認識する力」などです。これらの能力も、社会で求められる「基礎学力」のひとつと言えるのではないでしょうか。

 現代の社会は、あらゆる面で変化が激しく、しかもその速度が非常に速くなりました。当社が携わる半導体業界でも、技術革新の速度はめまぐるしく、昨日まで最新だった技術が今日には陳腐化していることも珍しくありません。そんな状況ですから、各企業とも「製品開発スピード」や「商品化スピード」で必死の競争を繰り広げています。とにかく今の時代、企業人に求められるのは、その「スピード」なのです。
 ですから、企業で働く個人には「即戦力となりえる『専門性』」が求められます。社会に出てからじっくりと鍛えている時間的な余裕など、今の企業にはありません。世界の先進国と比べてみても、就職した大卒者や院卒者を、企業が何年間も教育している国は、日本以外にはありません。諸外国において大卒者と院卒者で初任給の額が大きく異なるのは、入社直後から貢献度に差があるからに他なりません。このような状況では、今の日本企業はグローバルな競争に勝ち残っていくことは困難となるのではないでしょうか。
 「即戦力となりえる『専門性』」を身につけてから社会に出るためには、「基礎学力」はなるべく早い時期に体得してしまうべきだと考えています。高等学校以降はもっと専門的なことを学ぶべきでしょう。現代の最新技術はますます複雑化しており、大学以降の4年や6年で学びきれるほど簡単ではありません。専門分野を学ぶために最低限必要な「基礎学力」は、中学校卒業までに、遅くとも高校卒業までには全て習得できるような仕組みをつくるべきではないでしょうか。

2.「基礎学力」を鍛えるには-その(1)「パソコンに頼らない、手で書く」

 私は多くの人と一緒に仕事をしてきましたが、中には自分の仕事に大きく関わる重要な数字が頭の中に入っていないという人も居ました。そういう人に限ってパソコンやITを使いこなすのは得意であり、一見データに明るそうに見えるのです。ですが、大事な数字が体系的に頭に入っていない人は、特に幹部やリーダーとしては使い物にならないでしょう。相手のことを見ずに、パソコン画面を見ながら打合せを行う社長など、見たこともありません。
 パソコンへの過度な依存は、記憶力・構造化力・体系化力の退化に繋がるのです。パソコンに頼りすぎると、大切なデータやテキストは、パソコンに記憶させておけば「自分は忘れても大丈夫」という免罪符を与えられたような気になってしまうのではないでしょうか。私がお目にかかった欧米の名だたる企業の役員の人たちは皆、自分の頭の中に蓄積されている体系的な知識を使って議論し、手元のノートに自分の手書きでメモを取っていました。
 やはり「手書き」は大切です。自分の頭で咀嚼し、自分の手で要点をメモするという習慣をつけないと、知識は自分で使えるものにはなりません。結果として、「体系的・構造的な思考力」は体得できないのです。

3.「基礎学力」を鍛えるには-その(2)「褒めて褒めて褒めまくる」

坂本 幸雄 氏 私が41歳の時、初めて米国に渡って仕事をしました。その際に就いた現地の上司は、毎日のように私を褒めてくれました。いわく「坂本さんは体育大学出身なのに、よくこんな物理や財務が分かるね」などのようにです。結局、米国に滞在していた2年間の間、一度も声を荒げられたことがありませんでした。私は褒められるたびにとても嬉しく、そのことが自信にも繋がっていきました。それまでの私はといえば、部下を叱責するばかりで褒めたことなどほとんどありませんでした。帰国してからというもの、私は人が変わったように部下を褒めて伸ばすようになったのです。

 長いビジネス経験を積み、いい年をした人間でも、褒められれば嬉しいのです。ましてや、子供や若者が大人から褒められて嬉しくないはずがありません。厳しい指導は、往々にして反発と敵愾心を生むだけになりがちであり、そこに成長は生まれません。逆に、人は褒められて嬉しくなるとそれが自信につながり「もっとやってみよう」と思う生き物です。そこにこそ、成長が生まれます。
 私の経験則からいうと、「褒める8割、要望する2割」程度が黄金率ではないでしょうか。特に、「区切りごと」「レベルごと」に、その都度褒めることが極めて有効です。指導にあたる人は、意図的且つ段階的に褒める機会を作り、そのたびに繰り返し褒めてあげることが重要だと思います。

4.「基礎学力」を鍛えるには-その(3)「チームスポーツをさせる」

 私自身、学生時代には野球に熱中し、将来は高校野球の監督になりたいと思っていました。野球というチームスポーツから学んだことも、社会で非常に役立っていると感じています。特に幹部やリーダーとなる人材にとって、そこから学ぶことは非常に多いと考えます。その傍証として、欧米の名だたる企業の社長経験者で、チームスポーツをやったことがないという人は、およそ見たことがありません。政治家においても同様でしょう。

 チームスポーツから学べる最大の要素は、「走りながら考える力」です。ピンチに陥ったとき、試合中に立ち止まって、「次の作戦を考えるから、ちょっと待って」などということが、相手チームに通用するはずがありません。仕事も同じです。あらゆるリスクを考え過ぎてしまい、立ち止まってしまう人も良く居るようですが、とにかく行動しなくては価値は生み出せません。もちろん闇雲に動くだけではいけませんが、立ち止まって考えているのはもっといけません。まずは走り出すこと、そして走りながら見えてきた事実をもとに考え、走る方向や走り方を修正していくことが重要なのです。
 次に、一人の力では決して勝てない「チームワーク力」の大切さも学べます。企業とはそもそも、ある夢と目的を持った人が、一人では実現できないので、それに共感した人々を集めて立ち上げたチームに他なりません。「一人では出来ない何かを成し遂げるために集まっている集団」であることが企業組織の本質であり、「チームワーク力」は企業活動の根源であるといえます。
 また、スポーツの結果は常にシビアであり、勝ち負けが明確です。相手との力量の差や、メンバー一人ひとりの貢献度、役割をきちんと果たしたか、連携は巧くいったかどうか、などを毎日検証する必要があります。これらを通じて「結果検証をする力」が身につくのです。それによって、チーム全体とメンバー個々人の課題を明確にし、次の試合に向けて改善を実行していきます。これは、企業活動と非常に似通っています。

 更に、チーム同士やメンバー間の比較において、力と経験の差を冷静に見続けることも必要となるので、「自分の強みと弱みを冷静に見極め、自分のポジションを認識する力」も養われます。
 私が社長に就任した当時、当社は三年連続して200億円を超す赤字という、非常に厳しい状況にありました。当時の当社の売り上げは、パソコン向けのDRAMが80%以上を占めていました。ところが、世界市場シェアで見るとわずか2%しか占めておらず、今後の伸びは期待できませんでした。そこで、私はパソコン向けDRAMの生産を減らし、将来性の高い携帯電話向けDRAMの生産に多くの資源を投下したのです。2割の売上の商品に賭けるなど、内部視点から見ると無謀な行動に思えるかもしれません。ですが、結果として1年で赤字は解消、2年目には一部上場も成し遂げることができるなど、大成功を収めることができました。現在では、携帯電話向けDRAM市場において、世界市場のおよそ60%のシェアを占めるに至っています。
 つまり私は、外部視点に立って当社の「強みと弱みを冷静に見極め」、強みの部分を伸ばすことに集中し、大きな変革を成し遂げたのです。それを見極める力が無ければ、私は内向きの視点に陥り、主力商品を捨てるなどという決断は出来なかったに違いありません。この能力も、学生時代の野球の経験から培われたものだと自負しています。

5.「基礎学力」を鍛えるには-その(4)「思考力と想像力を刺激しながら教える」

 例えば算数の授業の時、「答えが2になる計算式を考えよう」と問われるのと、「1足す1の答えを考えよう」と問われるのと、どちらが想像力を刺激されるでしょうか。あるいは地理の授業の時、宇宙の大きさや銀河系の位置から始まり、やがて地球、そして自分の国へと、大きな世界から小さな世界へと移動しながら教えられるのと、その逆に自分の国、地球、宇宙と小さな世界から教えられるのとでは、どちらが世界の広さを実感できるでしょうか。また、自分の人生を考える時、10年後の自分を想像してから今年のテーマを考えるのと、去年の自分を振り返ってから今年を決めるのと、どちらがワクワクしてくるでしょうか。
 この3つの例は、前者が欧米先進国の授業の特徴で、後者が日本の授業の特徴です。そして、グローバル企業の考え方も前者に近いのです。まずは会社として成し遂げたいこと、つまり夢が最初にあって、それを実現するために今何をなすべきかを考えます。ものごとは、得たい結果から逆算で考えていくのです。日本の授業のやり方も、世界標準に合わせるべき時なのかもしれません。。


※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。

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