公益財団法人 日本漢字能力検定協会

基礎学力を考える 企業トップインタビュー

株式会社ニチレイ

浦野 光人 氏

代表取締役会長 浦野 光人 氏

1948年生まれ。1971年横浜市立大学文理学部経済地理学科卒業後、同年日本冷蔵株式会社(1985年に株式会社ニチレイと商号変更)に入社。低温物流企画部長兼企画課長、情報システム部長、取締役経営企画部長等を歴任後、2007年より現職。2005年より株式会社ニチレイフーズ代表取締役社長も兼務。社外関係では、社団法人経済同友会副代表幹事、同会教育問題委員会委員長。

1.「読解力」に総体的な低下が見られる

 今、基礎学力の低下が大きな社会問題になっていますが、私は子どもの学力が全体的に下がっているのではなく、「二極化」が進んでいるのだと捉えています。弊社の新入社員を見ても、昔と比べて特に学力が落ちているとの実感はありません。しかし一方で、現状の様々な問題を見た上で、ゼロベースで新たに課題を設定し、それを解決していくような能力は、落ちてきています。例えば、基本的な「読み書き」ができても、それを読み解いていく「読解力」が備わっていない若者は、増えているように感じます。

2.「表意文字」としての漢字文化

 漢字には、アルファベットと著しく異なる特徴があります。それは「表意文字」であるという点です。例えば、日本語で「景観」という言葉があります。これを英語で言えば、「landscape」となりますが、この言葉を理解するには、単語の意味を知らなければなりません。でも、日本語の「景観」であれば、たとえ熟語として知らなくとも、「景」「観」の漢字の成り立ちを理解していれば、それとなく意味を推察できます。この点が「表意文字」の強さです。ですから、常用漢字を覚えていく過程においては、漢和辞典などを使って文字の成り立ちも含めて理解していくことが、日本語力を育んでいく上で大切だと思います。
 また、漢字には一字一字に雰囲気や風格があります。その字の形や意味が、独特の味わいや美しさを醸し出し、時に感情までをも表現します。これはアルファベットにはない点です。今、象形文字からできた文字を使っている国は世界中を見渡してもほとんどなく、漢字は日本が世界に誇れる文化の一つだと思います。例えば、自分の名前の由来や命名した時の親の気持ちを聞いてみてはどうでしょうか。一文字ごとに込められた「意味」や「思い」の深さを知ることでしょう。

 漢字のもう一つのメリットが「速読」です。速読の技術を持っていれば、英語よりも日本語の方がはるかに効率よく文章を読んでいけます。なぜかと言えば、日本語の場合は漢字を拾い読みしただけでも、誌面に散りばめられた意味や文脈を瞬時に読み取ることができるからです。日本語はその高度さや稀有さにおいて、世界でも類を見ない言語です。
 私は1971年の入社ですが、新入社員の頃、役員回覧用の資料として、新聞のダイジェスト版を作成する仕事を任されていました。新聞を読み、大切な記事をピックアップして、その要点をまとめていく作業です。ワープロがない時代ですから、当然手書きでした。その際、上司から言われていたことがあります。それは、漢字をひらがなよりも大きく、1.5倍ほどの比率で書くことでした。

 このように、「表意文字」としての漢字文化には、素晴らしいものがあります。その意味でも、しっかりとした漢字の読み書き能力、そして読解力を備えておくことが大切ではないでしょうか。

3.「高い志」と「好奇心」を持ってほしい

 私は社会人に求められる能力を4つの視点から捉えています。

 一つ目は「高い志」です。これがないと、何をやっても空回りしてしまい、本気で取り組むことができません。自分はどう生き、どう社会に貢献していくのか、そのモデルとなる人物と数多く出会わなければなりません。
 とは言っても、そうした人物を見つけ、一から関係性を築くのは至難の業です。私も毎年、多くの人と名刺交換をしますが、限られた時間の中で互いの胎(はら)の奥底を出し合うことは難しく、その生き様や社会観にまで触れられる人はごく僅かです。その意味で、大切となってくるのが「読書」です。古典や名作と言われる本には、その著者の全人生を賭けた人生観が凝縮されています。私は新入社員に、そうした本と出会い「腑に落ちるまで格闘しなさい」そして「頭が痛くなるまで考えなさい」と話しています。

 二つ目は「好奇心」です。これを持つために大切なのは、「シミュレーションすること」だと考えています。例えば、新聞に拉致被害者の記事が載っていたら、被害者の家族の立場になって、どんな意見が言えるかを考えてみる。企業の吸収合併が報じられていたら、吸収される側の社長の立場になって考えてみる。政治・経済記事を読みながら、首相や日銀総裁の立場になって「次の一手」を読んでみる。こうしたシミュレーションを習慣化することで、幅広い分野に好奇心を持ち、物事を広角的に捉える能力が培われるのです。

4.ズームインとズームアウトを繰り返す

浦野 光人 氏 三つ目は、その好奇心を「ロジカルに組み立てていく力」です。先述した読み書き能力や読解力が、そのベースとなります。昨今、OECDの調査で日本の子どもの読解力の低下が明らかになりましたが、非常に深刻な問題だと捉えています。たとえ好奇心があっても、読解力や理解力がないと、人の話を咀嚼することができません。

 そして四つ目が「洞察力」です。人生においても、会社経営においても、変局(曲)点を察知することが重要で、これを見失うとある日突然ハシゴを外されてしまいます。今までとは「何かが違う」と感じたとき、それが変局点にあるのか、あるいは連続的な変化の過程に過ぎないのか、それを見極める力こそが洞察力なのです。

 洞察力を磨くためには、前例や慣例を疑ってみること、そしてデータや統計だけを見ず、フィールドへ戻ってみることが大切です。現場を見て「裏を取る(事実を確認する)」ことで、数字が持つ意味がより明確に浮かび上がってくることもあります。もちろん、鳥瞰図の視点で見ることも大切です。必要に応じて視点を切り替え、ズームインとズームアウトを繰り返す。私は学生時代に地理学を学んでいたことから、常にこうした手法で物事を見るよう、心がけてきました。

 これらの能力は、自ら養うものであり、御釈迦様のようにある日突然降ってくるものではありません。「読み書き」は広義の「読解力」を支えます。「読解力」は「数理思考力」を支えます。そして、「数理思考力」が「論理思考力」を支え、「論理思考力」が「洞察力」を支えるのです。企業(社会)で問われる「論理思考力」や「洞察力」は、確固たる「基礎学力(読解力リテラシー・数学的リテラシー・科学的リテラシー)」の上に築かれるのです。

5.高校卒業までに身につけておくべきこと

 社会に出て仕事をする為のベースとして、「基礎学力」は徹底的に身につけておくべきだと考えます。
 現在の学習指導要領に定められている内容の全てを身につけるというのは難易度が高いかもしれません。ですが、その中でも「基礎的」なもの、例えばOECDで定義されている以下の3つのリテラシーに近しい領域は必修であろうと思います。

読解力リテラシー
自らの目標を達成し、知識と可能性を発達させ、社会に参加するために、書かれたテクストを理解し、活用し、深く考える能力。

数学的リテラシー
数字が世界で果たす役割を理解するとともに、社会に対して建設的で思慮深い市民として、自らの生活の必要に見合った方法として数学を活用し応用し、より根拠のある判断を行う能力。

科学的リテラシー
自然の世界および人間活動を通してその世界に加えられる変化についての理解と意思決定を助けるために、科学的知識を活用し、科学的な疑問を明らかにし、証拠に基づく結論を導く能力。

 こういった領域を中心として、その学校段階で学ぶべき内容を子どもたちにきちんと習熟させて、次の段階へと進学させることが重要です。全ての教育機関がそれぞれの出口における学習者の「基礎学力面での品質保証」を行い、18歳で「社会で必要な基礎学力」を身につけられる社会を作っていくことが、緊急の課題なのではないでしょうか。


※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。

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